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志賀直哉作、大正6年発表「城の崎にて」
※その1
※その2
※その3
※その4
※本作品は一度本ブログで取り上げたものでこれの朗読版である。私は先日これを仙台市泉区図書館のビデオで鑑賞に及んだ。

この時(大正2年)の直哉は東京に住んでいたので汽車に乗ってはるばる関西の兵庫県まで来たことになる。このあたりは父親の財力の恩恵に授かったと解釈していいだろう。

ビデオのアニメに登場する主人公はやや面長で鼻筋が通っていて少しだけ三十くらいの直哉に似ているような気がする。

実際の三十歳のころの直哉は口髭を生やしていて何か育ちのいい若旦那といった風情がある。この時の彼はまだ独身で妻を持ったのは翌年の31歳の時であった。

イラストでの城の崎温泉、大正の初めのころは家もまばらだったのではないだろうか?

近年の城の崎温泉を上空からご覧頂きたい。近代的な観光ホテルなども建ち並んできて直哉が養生に行ったころとはだいぶ様子が違うのではないだろうか?

志賀直哉大正6年発表「城の崎にて」(本文冒頭より抜粋)

山手線の電車に跳ね飛ばされて怪我をした。その跡養生に、一人で但馬の城崎温泉に出掛けた。背中の傷が脊椎カリエスになれば致命傷になりかねないが、そんなことはあるまいと医者に言われた。二三年で出なければ後は心配はいらない。とにかく要心は肝心だからといわれて、それで来た。

三週間以上―我慢できたら五週間以上居たいものだと考えて来た。頭はまだ何だかはっきりしない。物忘れが烈しくなった。しかし気分は近年になく静まって、落ち着いたいい気持ちがしていた。稲の穫り入れの始まるころで、気候もよかったのだ。一人きりで誰も話し相手はない。読むか書くか、ぼんやりと部屋の前の椅子に腰かけて山だの往来だのを見ているか、それでなければ散歩で暮らしていた。

散歩する所は町から小さい流れについて少しずつ登りになった路にいい場所があった。山の裾を回っているあたりの小さなふちになったところに山女が沢山集っている。

※宿から川沿いの散歩に向かう主人公

川沿いに歩く主人公、今でこそ賑やかになったようだが当時はこのように殺風景で小説の中にも出てくるように直哉も寂しく沈んだ気持ちになったのでないだろうか?

四十くらいの年格好の車夫や子供が逃げ回るネズミに向かって石を投げるシーンである。それにしてもリアルと言った感じがする。朗読と併せてこの絵を見ると当時の情景が思い浮かんでくる。

現代の城の崎温泉郷、よく見るとスケッチと似た橋があるのがわかる。それだけスケッチが良く書けているということである。

有名な石を投げるシーン。間違って偶然イモリに当たってしまう場面である。

  ミック感想

志賀文学の特徴を箇条書きにすると
①若年期は父との確執と戦いながらもその財力の恩恵を受け己の創作活動の糧とし、様々な地域(尾道、大山、城崎、松江…)での旅行や転居を有意義なものにして作品に反映させた。
②画一的、統一的な抑制を嫌い、己の信念のままに生きながらも大変な社交家であり、多くの文化人、芸術家と関わりを持ち、生き方そのものを文学作品の域に達ししめた。
③家族を何よりも大切にするとともに自然や美術工芸の世界にも目を向け、心の平穏をいざない、エッセイなどの作品にこれを反映させた。
④無神論者ながらも敬虔な心を培い、独自の強い倫理観を貫き88歳の長寿をまっとうした。

文中の精密な自然描写もさることながら、なんとも一気に引き付けられるような書き出しである。ほとんどの読者は電車に跳ねられたことに対しての重篤性と、数週間に及ぶ温泉での跡養生が出来るような身分の人物とはいったいどんな人間なのか?といったあたりに大いに興味をひかれるのではないだろうか?

三十歳の直哉が山手線の電車に跳ねられたのは大正2年(1913年)8月、素人相撲の見物を終えた後と志賀直哉書簡に書かれている。この時直哉は友人の里見(作家)と歩いていた時であり、里美は事故の一部始終を目撃し直哉の病院行きに付き添ったのである。それだけにこの小説は作り物でない迫力がある。今更言うまではないが、メインストーリーは動物の死と自己の命の対極を示すことで生とはなんなのか?死とはなんなのかを間接的に訴えるものと考える。

青少年の文学入門書とも成りうる作品でもあり、小説の神様の名に相応しい倫理観あふれる名作中の名作。
本ブログ、志賀直哉の研究シリーズ
志賀直哉の生活信条とはhttp://blogs.yahoo.co.jp/bgytw146/31880028.html
志賀直哉の真の魅力【動画】http://blogs.yahoo.co.jp/bgytw146/31767062.html
志賀直哉生前インタビューhttp://blogs.yahoo.co.jp/bgytw146/31385305.html
志賀直哉生誕130周年を偲ぶ旅http://blogs.yahoo.co.jp/bgytw146/31505557.html
志賀直哉生涯23回の引越しの謎http://blogs.yahoo.co.jp/bgytw146/31434256.html
志賀直哉「城の崎にて」http://blogs.yahoo.co.jp/bgytw146/28846600.html
志賀直哉「小僧の神様」http://blogs.yahoo.co.jp/bgytw146/30176213.html
志賀直哉「清兵衛と瓢箪」http://blogs.yahoo.co.jp/bgytw146/30989155.html
志賀直哉「濠端の住まい」http://blogs.yahoo.co.jp/bgytw146/31743321.html
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