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   エッセイ「晩秋のトチノキ林」
今週の日曜日、一ヶ月半ぶりにいつものトチノキ林を訪ねた。遠くから見ると残りわずかとなった枯葉が陽に照らされ山吹色に輝いていた。秋というには遅く冬というには早いこの季節、私は間もなく全ての葉が枯れ落ちようとするトチノキに何か寂しさを感じた。



今度は林に近寄ってみた。林の中を縫う小道には子犬を連れた若い女性が散歩をしていた。懸命に前足で落ち葉をかく子犬の仕草に私は思わず「可愛いね。」と声をかけた。奥のベンチでは熟年男性がカセットで昔の流行歌を聞いていた。皆思い思いに休日の午後のひと時を楽しんでいる。小春日和のような陽気も手伝い、私はそれらの人々の様子を見ているうちに愉快な気持ちになってきた。
 
最後は林の中の道のないところを歩いてみた。落ち葉の上を歩くとふわふわした感触が心地よい。まるで天然の絨毯の上を歩いているようだ。春の頃の芽吹きに寄せる希望、初夏の頃の若葉の勢い、秋の頃の紅葉と落ち葉の妙、冬の頃の枯れ木のわびさび、この林は住宅地にありながら四季折々にそれぞれ深い味わいを人に伝え、幽境の境地に導いてくれる。



伸び行く頃の新緑だけが華ではない。若年の頃に見えなかった世の摂理が年を重ねてようやく見えてくる。人生に於いては円熟とともに儚さも同居するのだ。私は勢いをとうに過ぎあと少しで枯れゆくトチノキに永遠と続く人の世の定めを感じた。
 
時刻はまだ二時、このトチノキ林も今年の見納めになるのかも知れない。私は晩秋の好日のもたらす心地よい余韻に浸り、後ろ髪を引かれる気持ちでトチノキ林に別れを告げた。
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