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 19世紀末の英国サリー州の田舎の素晴らしさ
The Adventure of the Solitary Cyclist「美しき自転車乗り」、直訳:「孤独な自転車乗り」:ストランド誌1904年1月号発表、1905年発行『シャーロック・ホームズの帰還』収録。


              
「美しき自転車乗り」 あらすじ
 1895年4月のことだった。土曜の昼下がり、ベーカー街に一人の女性が自転車で訪れた。



 彼女の名はバイオレット・スミス、ホームズは得意の推理で彼女が自転車乗りで音楽家であることを当てて彼女を驚かせた。



 彼女の父親は国立劇場の指揮者だったが既に他界しており、親戚は南アフリカで行方不明になった伯父のラルフ一人である。ある日彼女は新聞で自分達母子を探しているという広告を見つける。この時経済的に困っていた彼女は遺産が入るという期待を抱き、指定された弁護士事務所を訪れる。そこで待っていたのは、落ち着いた中年の紳士、ガラザースと葉巻を咥え赤毛の口髭を生やしたウッドレーだった。
 
※なんとなく下品な感じのするウッドレー、写真からも察せられる通り彼は最初からスミス嬢を色目で見ていた。



 彼らは伯父ラルフの友人であると名乗りラルフは無一文で亡くなったが、彼女の後見を任せられたとのことだった。ここでカラザースは彼女に自分の娘の家庭教師になってくれるように頼んだ。彼の屋敷はサリー州にあったが相場の倍近い高給待遇と週末の帰宅許可を条件に示し、彼女はこの仕事を引き受けることとなった。



 それからは彼女は週末になると自転車と汽車を使ってロンドンの母親の元へ帰り、月曜の朝に屋敷に戻るという生活を送ることになった。
 
※月曜の朝、カラザース邸に出勤するスミス嬢



※カラザースの屋敷はご覧のような豪邸だった。



※カラザースの娘のセーラにピアノを教えるスミス嬢



 しばらくは平穏な毎日を送っていたが、例のウッドレーが屋敷にやってきてから事情が一変した。ウッドレーは彼女と二人っきりになったのを見計らって嫌がる彼女を強引に抱き寄せ、求婚を迫ってきたのである。この時カラザースが気づきウッドレーは屋敷を出入り禁止となった。
 
 ところが今度は表立って態度に出さないものの、カラザースも彼女に関心がある素振りを見せるようになった。しかし彼女には既に婚約者があった。このころ彼女は屋敷から駅まで自転車で行く途中、中年の黒い髭を生やした気味の悪い男が後ろからつきまとわれるようになった。
 
※200ヤードくらい離れてサングラス、髭ぼうぼうの気色悪い男につきまとわれるスミス嬢



※彼女が止まって振り返ると男も止まった。


 一度彼女は勇気を出して急な曲がり角で待ち伏せをしたが、大変不思議なことに男はどこかへ消えてしまった。彼女の興味深い話を聞いたホームズは、何か進展があれば連絡をし、決して無茶な行動はしないように注意をする。



 週の月曜日、ワトソンは彼女の調査へ向かった。ワトソンは彼女が通る道の物陰に隠れていたが、やがて彼女の言うとおり自転車で走る彼女の後ろから黒眼鏡をかけた髭の男が後をつけ、森の中に消えた。ワトソンが消えていった場所へ行ってみるとジャービスという看板あった。
 
 ワトソンはベーカー街に戻りホームズに今日一日のことを報告したが、「これではほとんど役立たずだ」と言われ落胆する。ホームズは「私なら近所の酒場(英国の慣習からパブを指していると推測)に行く。ここなら情報を収集できるはずだ。」とワトソンに言った。
 
※彼女の言葉通り、荒涼とした原野と深い森の中にその道はあった。



 数日後スミス嬢からカラザース氏から求婚あり、しかし既に婚約者がいるので断ったと電報が届く。そこでホームズはまっすぐ酒場に向った。ホームズはカウンター席につき主人にチップを払い情報を聞き出す。主人はあの妖しい色眼鏡の男が消えた森の先にある屋敷はチャリントン館で、ウィリアムという男が主人だが彼は元牧師で資格を剥奪されており、あまり紳士的ではない人物であると言う。
 
※いかにもうさんくさい感じのする偽牧師ウイリアム



 そして一番タチの悪いのが赤毛の口ひげの男だと言った時、酒場で立ち聞きしていたその本人のウッドレーがホームズに因縁をつけた。

 

※ホームズに因縁をつけるウッドレー



※逆切れし手の甲でホームズに不意打ちを加えるウッドレー



 彼はホームズを突き放し喧嘩を吹っ掛かけてきたが、ホームは正当防衛としボクシングで彼をノックアウトする。
 
※ホームズには学生時代ボクシングの心得があった。



※ウッドレーを左フックでKOするホームズ(ストランド誌挿絵より)



 翌日、スミス嬢はウッドレーがカラザースに会うのを見たが、恐くなった彼女はホームズに今週の土曜日に退職すると手紙を出した。ちょうどカラザースが彼女の為に注文していた馬車が届いたので、一人自転車で走ることはなくなったが、ホームズは心配になりワトソンとともに遠くから帰りゆく彼女を見守ることにした。
 
 ところが今日に限って彼女はいつもの時間よりも早めに屋敷を出てホームズとワトソンが見たのは、誰も乗っていない空っぽの馬車であった。馬車に乗り込み消えたスミス嬢を捜していると、例の黒髭の男と会った。そこで突然森のほうから女性の悲鳴が聞こえた。3人はあわててその声の方へ駆け寄ると、東屋でウッドレーが嫌がるスミス嬢と結婚式を挙げているところであった。しかも彼女はウッドレーに猿ぐつわをかまされて強制結婚されそうになっていた。



 これを見て怒り狂った黒髭の男(彼の正体は変装したカラザースであった)はホームズとワトソンの脇をすり抜け、拳銃の銃口をウッドレーに向けた。そして彼は「もう遅い、彼女は俺の妻だ!」と言うウッドレーに「いや、未亡人だ!」と告げ、拳銃を発射した。



 この時弾は急所は外れた。ホームズとワトソンは気を失いかけたスミス嬢と怪我をしたウッドレーを屋敷まで運んだ。結婚式を執り行った自称牧師のウィリアムは、二人の結婚は正当だと言い張ったが、ホームズは彼の牧師の許可書が無効になっていることを指摘し、また強制結婚は無効であり逆に犯罪であると告げた。
 
 二人の手当てが終わり終に真実が語られるときがきた。ここでカラザースは重い口を開いた。
実はスミス嬢の伯父ラルフは南アフリカで財を成し、これを横取りしようと考えたカラザースとウッドレーは、ラルフが亡くなる前に英国へ渡り財産を相続するであろうスミス嬢と結婚しようとたくらんだ。
 
 どちらが求婚するかは、帰路の船上の賭けトランプ(カード)で決めた。ところが彼らに誤算が生じた。カラザースもスミス嬢を愛してしまったのである。カラザースはウッドレーが彼女に何をするか分かっているものの、すべてを告白すれば彼女は自分の元から去ってしまう。であれば結婚できなくてもいいから一緒にいたい。そう考えた彼は変装をして屋敷から駅へ向う彼女をウッドレーから護衛していたのであった。
 
※※※
 
 後日、裁判が開かれウッドレーは10年の刑、ウィリアムスンは7年の刑そしてカラザースはホームズの弁護もあり6ヶ月の刑ですんだのであった。
 
             コメント
 
 いつの世にも美貌の女性と莫大な財産は狙われないためしがない。本作もこれを本筋としたものである。ストーリーは結構複雑で展開を注意して見ていないとわからなくなる。彼女を追いかける不審な黒眼鏡の男は最初はただのストーカーとも思われたが、途中から状況が変わり彼女の護衛をした美談とも受け取れる。ところが真相はカラザースの横恋慕とわかりやや興醒めする。結局カラザースとウッドレーとウイリアムはグルで三人とも彼女が伯父から引き継いだ遺産を狙った悪党だったのである。
 
 しかし私は小説において本筋から離れた枝葉を見るのも結構好きである。本作もその典型である。私がこのDVDを借りた動機は19世紀末の英国郊外の素晴らしいロケーションの中を走る美しい自転車乗りをひと目見たかったことと、まだ造られて日の浅い当時の自転車を見てみたいということである。枝葉のことをついでに述べさせてもらえばこの田舎の一本道の美しさは野趣に溢れ、のんびりとしていてやはり118年前の英国という感じがする。またお馴染ホームズのチェック柄の鳥打帽姿もカッコいいが、ドクター・ワトソンのベレー帽姿もシブくてなかなかインテリジェンスを感じさせる
 
 さて酒場での決闘のシーンだが、ここはさすがに英国紳士。ならず者のウッドレーも武器を使うことなくホームズと素手で相対している。これこそストリートファイトといった感じで騎士道的な心意気を感じた。それにしてもホームズの身体能力は素晴らしい。ウッドレーをKOした他、最後のシーンの馬車の追跡ではワトソンを100ヤードも離してしまうほどの健脚を見せた。このような視点でこの作品を鑑賞すれば古き良き時代の英国の雰囲気が存分に味わえるのではないだろうか?
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