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 シャーロック・ホームズの冒険「唇のねじれた男」 
オーディオブック サンプル シャーロック・ホームズ「唇のねじれた男
きょうはシャーロック・ホームズのある作品を通じて、19世紀後半の英国にあった『合法的なアヘン窟』について紹介する。尚、この作品の本筋は二の次にしたい。その理由は読後感想のところで説明する。
 
唇のねじれた男」The Man with the Twisted Lip)は、イギリスの小説家、アーサー・コナン・ドイルによる短編小説。シャーロック・ホームズシリーズの一つで、56ある短編小説のうち6番目に発表された作品である。
 
「ストランド・マガジン」1891年12月号初出。1892年発行の短編集『シャーロック・ホームズの冒険』(The Adventures of Sherlock Holmes) に収録された。予備知識としてアヘンやアヘン窟というものが一体どんなものだったのかを知ったほうがいいだろう。
 
 
                               アヘン【阿片】opium(Wikipediaより引用)

 
※以下はストーリーとは関係ないので興味のないかたは赤文字のみチェックして飛ばしてお読みください。
 
モルヒネなどを含む代表的な麻薬の一種。ケシ科のケシPapaver somniferum L.の花が散ってから約10日後、果(さくか)が未熟なうちに特殊なナイフで縦に浅く切り傷をつけ、にじみ出てきた乳液がしばらくして固まってくると、これをへらでかき取って集め、弱く加熱乾燥させたものがアヘンである。
 
これを塊状としたものが生アヘンであり、この生アヘンを粉末とし、モルヒネの含有量を9.5~10.5%に調整したものが日本薬局方のアヘン末である。黄褐色ないし暗褐色で特異なにおいがあり、強い苦味を有する。この医薬用のアヘンに対して吸煙用のアヘンは、生アヘンを水に溶かして不溶分を除去し、蒸発濃縮してエキス状としたもので、特別のきせるを用いて小さなランプの火で発煙させ吸煙する
 
アヘンは主成分としてアヘンアルカロイドを含み、そのほかメコン酸や樹脂、粘液などが含まれる。20種以上のアヘンアルカロイドのうち、おもなものはモルヒネ、コデイン、テバイン、パパベリン、ノスカピン(旧称ナルコチン)、ナルセインなどである。
 
アヘンは中枢神経を麻痺(まひ)させ、鎮静、鎮痙(ちんけい)、鎮痛、鎮咳(ちんがい)、止瀉(ししゃ)(下痢止め)、催眠および麻酔補助の目的で使用される。効果はモルヒネと同様であるが、作用は緩やかで遅い。副作用として悪心、嘔吐(おうと)、頭痛、めまい、便秘、皮膚病、排尿障害、呼吸抑制、昏睡(こんすい)など慢性中毒をおこし、廃人同様になる。その感受性は個人差が大きい。常用量はアヘン末として1回0.03グラム、1日0.1グラムで、劇薬および麻薬である。
アヘンはモルヒネ、コデインなどアヘンアルカロイド系麻薬の製剤原料であり、アヘン、ケシ、ケシガラは「あへん法」によって栽培、製造、輸入、売買、取扱い、所持に規定があり、一般には売買も使用も禁止されている。 [ 執筆者:幸保文治 ]
 
                 アヘンの歴史
 
当時、アヘンはルソンなどで作られて中国へ持ち込まれたとされ、年間200箱(1箱は約60キログラム)を超えなかったが、1757年にイギリス東インド会社がインドのアヘン専売権を握ると、中国への輸入は急増し、1000箱に達したのは1780年、5000箱を超えたのは1816年のことであった。
 
清朝政府の厳重な防止策にもかかわらず、1820年代には毎年1万6877箱にも増加し、その結果、イギリスとの間にアヘン戦争(1840~1842)が起こった。南京条約(ナンキンじょうやく)の締結によってアヘン戦争が終わったあとも、インドからのアヘンはそれまで以上に流入し続け、1850年には5万6839箱、1880年には9万6839箱に増大した。
 
             唇のねじれた男」粗筋
 
この物語の舞台設定はアヘン戦争終結から47年後の1889年のロンドン。ホームズの友人であるドクター、ジョン・ワトソン(既に結婚し、妻と二人暮し)のところに、妻の友人ケート・ホイットニーが訪れ、夫アイザ・ホイットニーをアヘン窟から戻してほしいという依頼がある。この後、ホイットニーはワトソンによって容易に発見され、このアテレコの冒頭の説明通り、土色の顔色と垂れさがった目のうつろな表情がTV版からは確認出来るが、実ははホイットニーはこの作品の本筋とはほとんど関係していない。この話は実はワトソンとホームズをバッティング(偶然遭わせること)させるためのコナンドイルの単なる手段に過ぎないことに気づく。
 
間もなくワトソンはアッパースワンダム横丁のアヘン窟「金の延べ棒」でホイットニー氏を発見し、自ら金を立て替えて払い、心配する妻のもとに帰るように説得した。そして帰ろうとしたワトソンは通路で乞食のような風采をした男に足を掴まれる。なんとホームズではないか。「ホームズ!」「しっ!」…この時ワトソンはホームズが別なある事件を追って変装しているのを知る。
 
                 乞食に変装したホームズ

ところでホームズが追いかけていたというこの奇怪な事件(セントクレア氏失踪事件)だが、リー在住のネビル・セントクレア氏(の成功した商社マン)が偶然通りかかった夫人によって、アヘン窟の3階の窓に顔を出しているところを目撃されたことに始まる。この時夫人は驚き「ネビル」と叫んだが、セントクレア氏は「あー!」という謎めいた悲鳴とともに部屋に消える。
 
      通りかかった妻に目撃され悲鳴と共に窓から姿を消すセントクレア氏

※夫人が中に入ろうとすると中に居たガラの悪そうなインド人とオランダ人に追い払われた。

夫人は警察に駆け込み、警官とともに現場に向かったがセントクレア氏は消え失せ、唇のねじれた身体障害者ヒュー・ブーン(物乞い)がそこにいるだけであった。窓枠には血痕がありブーンはその場で逮捕されたが、セントクレア氏の遺体は発見されず、所在も不明のままだった。
 
※ストランド誌の挿絵をご覧頂きたい。唇のねじれた男と窓枠についた血痕を見て失神するセントクレア夫人
 

この後ホームズはセントクレア氏は既に亡くなっていると推理したが、夫人は夫から無事を知らせる手紙が届いたとして生きていると主張した。結論を先にいうと実はセントクレアとブーンは同一人物であった。セントクレアはある保証人になって多額の負債を追ってしまった。金の必要な時に思いついたのがかつての新聞記者時代に体験した物乞いだった。ブーンに扮したセントクレアはシェークスピアなどの気の効いたレトリック(大衆受けする巧みな言い回し)を武器にして荒稼ぎ(日本の今の貨幣価値で一日10万円以上)していた。
 
彼は会社に行くふりをして実は妻に内緒で物乞いをしていたのだ。たまたまこの日はアヘン窟の3階で帰り支度をしセントクレアに戻ったところを偶然妻に見つかってしまい、苦肉の策としてブーンに変装してしまった。そして警察に連行され留置所に入れられたためにセントクレアに戻れなくなったのであった。
 
このからくりを見破ったホームズは留置所で石鹸を付けたスポンジでブーンの顔を拭いた。するとそこに現れたのはセントクレアであった。この作品の最後がいい。事件性がないと判断され警察から釈放されたセントクレアは妻の出向えを受ける。そしてブーンへの変装道具はすべて河原で火にくべてしまう。セントクレアがまじめで家族思いの紳士に戻った瞬間であった。
 
           感 想
 
シャーロックホームズシリーズの中では殺人を伴わないストーリーが登場するがこの作品もその一つである。ストーリーは取ってつけたような感がないわけではなく笑い話的な感覚で見ても良いのでないだろうか?私はむしろストーリーの枝葉であるアヘン窟のほうに興味をそそられた

TV版では19世紀末のアヘン窟を再現したとも思われるような興味深い映像が見られるが、驚くことに当時はアヘンは麻薬としての扱いを受けておらず、警察の取り締まりの対象とすらなっていなかったようだ。

この洞窟のような薄暗い雰囲気とまるで魂が抜けたような吸引者の恍惚の表情は現在の感覚から見れば禁断の麻薬の吸引という感じがする。まして当時のアヘン窟の中は街中でありながら、昼夜を通して薄暗く退廃的な感じを受ける。このアヘン窟はなにか神秘のベールに包まれている感すらある。
 
英国にとってのこの時期のアヘンはアヘン戦争に勝利した後の貿易の大きな目玉商品だったばかりか、量さえわきまえれば不安や苦痛をを和らげたりする一種の薬(アヘンは純度がよくなかった)のようなものという見方があったようである。とはいえワトソンが探し出したホイットニーの言葉によると、「三日間がたった数時間に感じられ」というように、この麻薬は強い幻覚や妄想をもたらすものと容易に想像がつく。
 
もちろんアヘン窟に入り浸りになれば廃人となるものであった。ストーリーはややこじつけで如何にも作り話的な内容という見かたはあるが、医者でもあり、作品中はワトソンに成りきっていると言っても良い原作者ドイルが19世紀末の英国のアヘン窟を舞台にした点に非常に興味を感じる。また唇の曲がった男が自分の過去を捨て愛する妻と娘たちのもとに戻っていった筋書きはドイルの堅実な保守性の現れと解したい。作品中のブーンとセントクレアの対比はジキルとハイドにも見る人間の二面性(多面性)も感じ、彼一流のユーモア、読者へのサービスと受け取った。
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