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    俗に染まらない憂鬱の素晴らしさ
 今回は前回に引き続き名作「焚火」の舞台ともなり、また志賀直哉が新婚時代の四ヶ月を過ごした赤城山麓のことについてお伝えする。今回の記事の参考にした文献は「志賀直哉全集大2巻」、志賀直哉随筆「赤城山にて」などである。

全集第12巻には直哉が生前知人や友人、家族に宛てて出した手紙が掲載されている。
この中で今回私が着目したのは大正四年の書簡である。

 前回紹介した赤城神社の山小屋について実は直哉は友人の里美(小説家)宛に手紙を書いていた。この手紙の日付は6月2日、赤城に来て約一ヶ月である。この手紙の中で直哉は妻の神経衰弱がここへ来てから大変良くなったと書いている。妻の転地療養は直哉の考えたようにうまくいったようである。

 そして次に登場するのが山小屋の間取(全集第12巻70ページのものをスケッチ)である。設計はおそらく直哉自らがしたのではないだろうか?まるで茶室を思わせるような簡素な造りである。ここで直哉は里美にこう言っている。
 
 僕は家を建てるように僕自身を建てることに興味を失っていない。僕は自分を見かけの悪い家だと思っている。勝手も下手にできた家だと思っている。しかし勝手のいい見かけ倒しの安普請(安く工事を頼んだ建物)を見ると自分のほうがいい家だと思う。文学者や書かきには安ぶしんの人間(見かけ倒しで中味がない人間を直哉が比喩した言葉)が多い。
 
 憂鬱ということは活気の反対のようだが、浮かれ気でいる気分よりかどんなに気持ちがいい安固な気分だろう。僕は今表面には新婚者らしい浮かれ気分もあるが、その奥には静かな憂鬱がある。それに僕は望みを置いている。生活はもちろん調子(音楽的)もありたいが、習字でいう入木道的(書道的)でありたい。二つが一致する生活が理想だ”
 
 日本のへそのような場所の赤城、妻と共にランプの明かりで過ごす山小屋、月夜の晩、彼は楢の木越しに、赤城大沼の漆黒の湖面に煌煌と写る月を見ながら、まるで墨絵のようなこの地の幽玄な趣を感じ取ったのではないだろうか?
 
 この時、直哉にとって妻の神経衰弱の療養も大切なことだったが、このような茶室のような質素な部屋で俗に捉われずに、作家にとって大切な「憂鬱」をわきまえ、「焚火」や「馬と木賊」などへの構想を練ったことだろう。一方、この憂鬱の原因として和解に至る前の父へのが背景にあるのを感じずにはいられない。
 
※赤城山志賀直哉山小屋平面図(寸法は直哉随筆や建物を作った猪谷六合雄手記を考慮してまとめた)

KR500レプリカの部屋、志賀直哉シリーズ
※志賀直哉生前インタビューhttp://blogs.yahoo.co.jp/bgytw146/31385305.html
※志賀直哉生誕130周年を偲ぶ旅http://blogs.yahoo.co.jp/bgytw146/31505557.html
※志賀直哉生涯23回の引越しの謎http://blogs.yahoo.co.jp/bgytw146/31434256.html
※志賀直哉東京麻布邸へのリンクhttp://blogs.yahoo.co.jp/bgytw146/31458035.html
※志賀直哉「焚火」へのリンクhttp://blogs.yahoo.co.jp/bgytw146/31674987.html
※志賀直哉「早春の旅」へのリンクhttp://blogs.yahoo.co.jp/bgytw146/31540382.html
※志賀直哉「自転車」へのリンクhttp://blogs.yahoo.co.jp/bgytw146/31319728.html 
※志賀直哉「城の崎にて」へのリンクhttp://blogs.yahoo.co.jp/bgytw146/28846600.html
※志賀直哉「和解」へのリンクhttp://blogs.yahoo.co.jp/bgytw146/29210086.html
※志賀直哉「暗夜行路」へのリンクhttp://blogs.yahoo.co.jp/bgytw146/30025253.html
※志賀直哉「小僧の神様」へのリンクhttp://blogs.yahoo.co.jp/bgytw146/30176213.html
※志賀直哉「清兵衛と瓢箪」へリンクhttp://blogs.yahoo.co.jp/bgytw146/30989155.html
※志賀直哉「山形」へのリンクhttp://blogs.yahoo.co.jp/bgytw146/31212264.html
※志賀直哉「大津順吉」へのリンクhttp://blogs.yahoo.co.jp/bgytw146/31299760.html
※志賀直哉「万歴赤絵」へのリンクhttp://blogs.yahoo.co.jp/bgytw146/31581965.html
※志賀直哉「雪の日」へのリンクhttp://blogs.yahoo.co.jp/bgytw146/31319728.html
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