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  武者小路実篤「友情」1919年(大正8年)
 武者小路実篤の詩や絵画に触れて、彼の生き方に興味を持ち、小説を読みたくなった。最初に何を読もうかと迷った。今回はこの「友情」を読んでみた。本作品は彼の代表作の一つでもあり、題名に何かとっつきやすさを感じたためである。

 長さは短編と中編の中間くらいのボリューム(約70ページ)である。尚、ユーチューブに動画化されているところを見るとこの作品はかつて映画化されているようである。まずは動画で作品のさわりの部分を見て頂きたい。
 
 ストーリーはややフィクション性が強いが、本質的には野島のモデルは実篤、年恰好や職業、二人の親密な関係からいって大宮は志賀直哉ではないだろうか?もっともこの点はこの作品の大筋に影響がないが、作品へ如何に傾注するかの感心に大きく関わるものではないだろうか?
 
 この点について触れた感想文や評論は私が調べた限りでは見られないが、もし読者諸兄でこの件に異論があるならば遠慮なくご意見を賜りたい。まずは動画をご覧頂きたい。なかなか原文から受けるイメージに忠実でよく出来た動画である。
自序の部分にこんな言葉が書かれている。「結婚は大事なものだがそれがすべてではない。恋し合うものが結婚すべきである。」これが実篤にとっての結婚観のようである。

                「友情」粗筋
 脚本家の野島(23)は、作家の大宮(26)と尊敬しあい、仕事に磨きをかけているが二人の力関係は大宮のほうがやや上であった。そんな中にあっても大宮はいつも野島を尊敬し、勇気づけていてくれる。
 
 ある日、野島は友人の仲田の妹・杉子(16)に恋をする。かたい友情で結ばれた大宮に包み隠さず打ち明けると、大宮は親身になってくれた。野島は杉子会いたさに仲田の家へ大宮と連れだって行くと、杉子はいつでも自分たちに無邪気な笑顔を向けてくる。野島は、杉子に大切にされている感覚を覚えた。しかし、大宮は杉子にはいつも冷淡だった。ストーリーはこの三人の三角関係へと発展する。
 
 ある日突然、大宮が「ヨーロッパ(フランス)に旅立つ」と野島に告げる。野島は友人と別れる寂しさと杉子を一人占めできる安心感とに悩む。それ以来、杉子とはあまり遊ばなくなる。そして野島は杉子に思い切ってプロポーズをしたが、断られた。杉子は突如ヨーロッパへ旅立ち、大宮からは彼が抱き続けていた心のうちを明かした本(大宮と杉子の手紙のやり取り)が届いた。この本は、大宮と杉子との間の往復書簡形式になっていた。
 
 野島との友情と、杉子への愛との間に板挟みになっていた大宮は、最初こそ野島は本当にいい奴なので是非結婚してやって欲しい」などと言っていたが、魔性の女、杉子の手紙(彼女の写真つき)によって徐々に考えが変わってしまう。
 
 そしてこのような手紙を彼女に書くに至る。「恐らく、友は最後の苦い杯をのむことを運命から強いられて其処で彼は本当の彼として生きるだろう。自分は女(杉子)を得て本当の自分として生きるだろう。」…もはや杉子は男を魅了する小悪魔に変身していた。そして大宮は杉子をフランスに呼ぶ決心をする。
 
 「わが友よ」と書き出された大宮の手紙には、親愛なる友のために同情も言い訳もせず事実だけを書くとことわり、「ただ自分はすまぬ気と、あるものに対する一種の恐怖を感じるだけだ」などと書かれていた。この本を読んだ野島は、泣き、怒り、先ほどの動画のようにかつて大宮から贈られたベートーベンの面を庭石に投げつけてたたき割った。そして、大宮へ「仕事の上で決闘しよう」という内容の手紙を書いた。
 
                  読後感想byミック
 この動画にも一瞬登場するが、鎌倉の夜の海岸での大宮の「ちょっと俺は用があるから失敬する」は野島に対して気を利かしたつもりであったが、うぶな野島は大宮と一緒に帰ってしまい、このチャンスを活かしきれなかった。途中まではこの大宮の美しい友情が恋愛を上回り、野島と杉子はゴールインするのでは?という展開である。このあたりまでは若き日の実篤の未熟な恋愛経験を彷彿させ、青さ、酸っぱさを感じる。私としてはこのまま終わるのも悪くないとさえ思った。
 
 しかしこの手紙が登場する終盤になってストーリーは全く変わる。この手紙を受け取った野島(実篤)はバラ色の人生から一気に悲運のヒーローになってしまう。また自らの大宮への思いを積極的に手紙に綴った杉子の行動力には往時(明治時代後期)の大和撫子とはまったく違った積極性(女性解放)を感じ、圧倒される。野島が大宮から贈られたベートーベンの面を割る悔しさは男として痛いほど理解できる。一途で純粋な彼だけに片思いの虚しさには同情を誘わずにいられない。
 
 恋愛と友情を比べることがそもそもの間違いなのかもしれないが、本作は単なる恋愛小説に終わらない。最後に述べた野島の言葉仕事の上で決闘しよう’には杉子を奪われながらも、ライバル大宮と競い後世に実のある文化的なものを遺そうという芸術家としての気概、男らしさを感じ、けして敗者にはなっていなと思った。
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