fc2ブログ
    愚鈍と言われてもいい、我は亀の如き人生を歩むなり
 早春の日差しに誘われ外出してみた。ここは仙台市郊外の崖の縁、時折音を伴った強風が激しく吹きすさぶ。まだまだ春霞とはほど遠く春の嵐の真っ最中だった。何か飛んで来ないだろうか?そんな懸念も頭をよぎるほどの荒れようだった。しかしながらそれは天候のことであり、心の中では寒い冬と別れを告げられる喜びが嵐の厳しさに勝っていた。それと新たな季節の到来が自分にとって、何か新しいものをもたらす予感のようなものを連想させた。

 最近私は或る一人の文学者に興味を持つに至った。きょうは早春の到来をささやかに喜ぶとともにその文学者への思いを彼の作品とともにお伝えする。あれは小学校三年のころと記憶している。好奇心で実家の茶ダンスの扉を開けた時、中にきれいな扇が入っているのを見つけた。その扇には何か詩のようなものが描かれ、最後に作者と思しき名前が入っていた。それは「天に星、地に花、人に愛」と書いてあり作者は何やら難しそうな名前であった。

 あとで祖母に名前の読み方を訪ねたところ「それは”むしゃのこうじさねあつ”と読むのだよ。」と教えられた。この意味を理解し感慨を深めるのはもう少し先のことであったが、それがよくわかると非常に美しい言葉に感銘を受けるとともに作者の稀なる才能を感じた。ちなみにゲーテや高山樗牛もこれと同じ意味のことを言ったが、この言葉は武者小路実篤の言葉である。ゲーテは「天には星、地には花、人には愛が不可欠である」と言い、高山樗牛は「この世の中で美しいものは、天にありては星、 地に ありては花、人にありては愛、これ最たらずや」と言ったとされる。
 
 三者の中で彼の言葉が一番遅いのは事実だが、このようなごく短い言葉に真意をまとめた点は高く評価できるのではないだろうか?この名言が彼に興味を持つ大きな転機になったのは間違いないが、一方で武者小路実篤は若手作家集団の「白樺派」に属し、志賀直哉とも親交の深い人物であったことが更なる興味に繋がった。彼は小説や詩、絵画を多く残しているようで、私は志賀直哉同様にこれからの読書対象としたいと思った。
 
※壮年を向えた両巨匠、左直哉53歳、右実篤51歳、昭和11年4月東大寺二王門前にて

今回は彼の詩「亀の如し」を紹介するが、果たしてこの詩には私の感性の持つ波長と大いなる同調を感じたので、彼の詩の紹介だけでなく、後に私の亀にちなんで作った詩も紹介する。

                         武者小路実篤作「亀の如し」
 
あきらめの隠れ家を用意しつつ我は図々しくこの世に生く。
あたかも亀のごとし。不安を感ずる時、我は隠れ家に逃げ込む。
 
不安の去る時、我は図々しく歩きまわる。あたかも亀のごとし。
わが頭、わが心臓かたきにあらず、わが隠れ家かたきのみあたかも亀のごとし。
 
かくて我やすらけく、わがままに呑気に、心のままに進む。あせるとも遅々として。あたかも亀のごとし。

          ミック作「亀の如き人生を愛す」
 
我は臆病で鈍重な人間である。その生きざまを動物に例えるなら亀が似合うのかも知れない。亀のようなゆっくりとした歩みでもよい。
我は一歩一歩着実に人生を歩みたいのだ。例え我の人生にいろいろな運命が待ち構えていてもそれに動ぜずマイペースで歩みたいのだ。
 
我は武骨でその様はスマートでない。されど我には甲羅がある。嵐が来れば逆らわずに甲羅に頭と手足を引っこめ辛抱しよう。
さすればひどい嵐とてやがて収まり、再び太平が訪れよう。あせらず待つのも我が心得としよう。
 
我は呑気な人間で楽天を理想とする。従って未来に不安を抱かぬ。我にはそれ故の楽しみがある。晴れた日には甲羅を干し、ゆっくりと過ぎゆく水辺の風情を楽しもう。我はこれからも亀のような人生を愛して生きよう。
 
PS:今回書庫に「武者小路実篤」の項目を設けた。今後の読書とともに読後感想などを投稿していく所存である。
関連記事

コメント

No title

「亀の如し」の抜粋、拝読しました('∀`)
亀はノロマ等という悪いたとえに使われる事が多いですが
兎と亀のように、マイペースで自分の足で着実に前に進んでいく
イメージがあります。
おおらかに、動じず、マイペースに進んでいく事が
少ない世の中にはなったように思いますが
焦らずに自分の足で地を固めて周りの景色も楽しみながら
歩いていける人生は理想ですね。
甲羅の例えが素敵です。手足を引っ込め、あせらず待つ。
流石のたとえだと思いました。

URL | joeyrock ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

武者小路実篤の作品はかなり読みました。温か味があり、ゆったりと話が進んでゆく、そして穏やかな感じが読む人の心を打つのです。
亀というのは縁起の良い生き物で、「亀は万年」と言われるぐらい長生きします。亀、大好きですよ。

URL | 行雲流水 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

武者小路実篤作「亀の如し」より、ミックさんの「亀の如き人生を愛す」の方に共感しますね~。。。

マイペース、焦らず待つ、未来に不安を抱かぬ…、がキーワードですね~。。。

URL | boubou ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

こんばんは。
巨匠達の言葉も、ミック様の詩も奥が深いですね。含蓄がある、と表現すべきでしょうか?
亀のように、何事にもどっしり構えていられたら、どんなにいいだろう、いつも感じます。実際の自分は、目の前のトラブルに慌てふためき、イライラしています。情けない気分を味わう毎日です(苦笑)。

URL | ひがにゃん ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

深夜にこんばんは。

ミックさんの感性は素晴らしいですよ。
毎回、鋭い視点での探索や志賀直哉の小説や生き方にまで興味を持たれて素晴らしいと思います。

亀さん…
堅い甲羅にスッポリ入ります。そしてじっと難が過ぎるまで待つ…
人生もそんなですよね。
急いでもゴールは殆ど一緒。私もそれなら自分のペースで亀さんのように生きていこうと思いました(*^-^)ニコ ナイス

URL | ミント ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

ミックさん、おはようございます。

亀の甲羅のごとし、戦国時代でしたら、凄い武将になっていると
思いますね、じっと我慢、チャンスと見れば攻める。

ところで、プロフィールで分かったのですが、血液型0型ですね、
私と同じですが、ちょっと、性格が違う様に感じます。

ナイス!です。

URL | 好日写真 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

joeyrockさん、亀は一見愚鈍のようにも見えますが実篤はそこに哲学を感じたのでしょうね。
同航海時代の帆船も嵐が過ぎるまでは無事を祈り、耐えるしかなかったのでしょうが、亀を見ると甲羅がある。
実篤も亀のそんなところに着目したのだと思います。
ノロマでも愛される亀に愛らしさを感じる…実篤の詩から感じたこの辺のニュアンスは彼のユーモアのセンスを感じました。
評価を頂きありがとうございます。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

行雲流水さん、或る文学者に傾倒するには大きな動機が要ります。
直哉の場合は生家が偶然私の生家の近くだったこと、実篤の場合はこの「天に花…」の名言でした。
これから彼の作品を読み、この言葉の背景にあった彼の思想や「白樺派」についても学んでゆきたいと思います。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

boubouさん、巨匠を前にめっそうもないお言葉で恐縮です;
実篤の「亀の如し」から受ける印象ですが、やはりマイペースで目先に対しては臆病ながら、未来に対しては楽観という感じを受け、大変感銘しました。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

ひがにゃんさん、正直言ってこの実篤の詩を最初に見た時はあまりインパクトを受けなかったのですが、繰り返し何度も読んでいるうちにその裏に託した実篤の生き方が見えてきました。
素人の私が言うのも何ですが、古美術に於いてもそういうことが言えるのではないでしょうか?
それは名作、名品にはひと目ぼれするものと何度か見ているうちにその価値に気付くものの二種類が存在するということです。
彼の詩は後者のほうですが、その中には武骨さも垣間見え、私と波長の合うものを感じました。
これを機にもっともっと彼の文学に触れていきたいと思います。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

ミントさん、志賀直哉に傾倒した故に、彼の友人であった武者小路実篤にも俄然興味が湧いてきました。
直哉は学習院を2学年落第して実篤と同級になり親交を深めていったようで彼のことを親しみを込めて「武者」と読んでいたようです。
この詩を読んで感じたのは実篤の武骨さと呑気なところですが、私も性格的に似たところがあるだけに余計にハマりました。
今後は彼の文学のみでなく、直哉との関わりにも触れていきたいと思います。
評価を頂きありがとうございます。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

好日写真さん、おっしゃる通り、戦国武将にもこういった考えが必要なのかも知れません。
攻防、戦略は亀のように待つべき時は待ち、行く時は行くべき…これが鉄則なのでしょうね。
兵法としても使えそうですね。
血液型のことは知識が足りなくてすみません;
ナイスを頂きありがとうございます。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

ミックさん\(//∇//)\今晩は☆

ついつい、毎日の決められた流れに縛られているためか、カリカリしがちの毎日ですが、基本、我が家はゆるい亀の如く歩む家庭です。

心は、亀でもしている事がウサギ。。上手くいかないのはそのせいなんでしょうね(´・_・`)

URL | mamiya ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

mamiyaさん、地にしっかりと足をつけ、亀のような人生を歩むのは理想ですね。
同じ時間であっても時がゆっくりと過ぎゆけばなにか得をしたような気持ちにもなりますね。
行動に移す前に一呼吸入れるのが亀でいられるコツなのかも知れません。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

こんばんは。
ミックさんの詩、共感しつつ読ませて頂きました。
実篤の「隠れ家の用意」の発想を興味深く思います。
ただ一直線に突っ走るだけでなく、隠れ家を持つことが挫折を防ぎ、再考の余地を与えてくれるでしょうね。
ミックさんの詩にMN!です。

URL | はぐれ雲 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

はぐれ雲さん実篤の「隠れ家」その通りだと思いました。
人は自分と境遇の似ている人間と出会ったとき、共感しますが実篤のけしてスマートでないところに惹かれました。
直哉とは学習院時代から生涯を通してのつき合いがありましたが相性が良かったのでしょうね。
深い考察、評価を頂きありがとうございます。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

ミック様へ
私の生き方を考えるとどうなんだろうと考えました。私が先ず浮かんだのが猪突猛進。馬車馬のように働くですかね。実際は対して働いていませんよ(笑)。ただ考えると。その目標に向かって邁進する。しかし殆どの場合弾かれました。痛い目に遭っています。それでもこの性格を変えろと云われてもおそらく死ぬまで直らないと思います。最近は歳を取ったせいか。亀のように引きこもっていますが。動かないで様子を見るのではなく。動けなくなっています(笑)。最期までそんな生き方になるのかなと思います。ナイスです。有難うございます。

URL | 不あがり ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

不あがりさん、御自身の生き方を語って頂きありがとうございます。失礼ながら私もそのような人生(猪武者)を歩んで参りました。
しかしながら猪突猛進の猪にも亀のような甲羅があったら獅子とて手出しは出来ず、無敵となりましょう。
世には【機を熟すのを待つ】という言葉がありますが、私はこの詩を通してその辺を訴えたかったのです。
けしてあきらめず機を待てば必ずや新たな転機が訪れ、おのずと視界が開けましょう。
核心に迫るお言葉&ナイスを頂きありがとうございます。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

トラックバックありがとうございます。

1年半前の記事を書いてらしたミックさんの気持ちを想って読みました。
最近亀と遭遇する機会が数回あり、観察したこととミックさんの記事がオーバーラップ致しました。
甲羅干しの顔は恍惚・・・エサを食べ目を細める顔・・・
エサになんとか這い上がろうとする必死な姿・・・
泳ぐ姿はまったり・・・私はこのまったり泳ぐ姿が好きです!
ミックさんの>ゆっくりと過ぎゆく水辺の風情を楽しもう・・・を感じました。
人生を亀に例える武者小路実篤作「亀の如し」
そしてミックさん作「亀の如き人生を愛す」
亀を観察する機会に恵まれた今だからこそ、より共感致します。
これからもまったり人生を泳いでいきたいと思います。

URL | 和奴 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

和奴さん、高察を賜り恐縮しております。武者小路実篤は某の好きな作家にごさいます。
彼は学習院時代、同級だった志賀直哉とは親友の間柄でしたが、ゆったりとしたおおらかな性格の持ち主だったようです。

そしてこの親友関係は一生続くことになります。某も戦国の世を無事に切り抜けることが出来たゆえ、今後は亀のようにゆったりと伸び伸びと暮らしたい所存にごさいます。
ありがたいお言葉を頂戴し感謝しております。トラックバック先にコメントを頂き、また相互トラックバックを頂き感謝しております。本日はありがとうございました。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

コメントの投稿

トラックバック

トラックバック URL
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)