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 「ガマの油」口上 
がまの油売り
いらっしゃい!まずは「ガマの油」売りの鮮やかな口上を聞いて頂きたい。
 
サァーテ お立会い、このがま何処に住むかと言うと、ご当地より はるか北、北は常陸の国(ひたちのくに)に筑波の郡(こおり)、古事記、万葉の古(いにしえ)より関東の名山(めいざん)として詠われて(うたわれて)おりまする筑波山の麓(ふもと)、おんばこという露草・薬草を喰らって育ちます。
 
サテ お立会い、 このがまからこの油を取るには、山中(さんちゅう)深く分け入って捕らえ来ましたるこのがまをば、四面(しめん)鏡張りの箱の中にがまを放り込む。サァー がんま先生、己(おのれ)のみにくい姿が四方の鏡に映るからたまらない。
 
ハハァー 俺は何とみにくい奴なんだろうと、己のみにくい姿を見て、びっくり仰天、巨体より油汗をばタラーリ・タラリと流す。これを下の金網・鉄板に漉き取りまして、柳の小枝をもって 三七は二十一日の間、トローリトローリと煮たきしめ、赤い辰砂(しんしゃ)にヤシ油、テレメンテーナ、マンテイカ、かかる油をば ぐっと混ぜ合わせてこしらえたのが、お立会い、これ陣中膏はがまの油だ。

    エッセイ「ガマの油に見る現代処世術」
 若いころ上司からお使いを頼まれ「お前、お客さんのところであまり油を売ってくるなよ。」とよく言われたものだった。この油を売ることの言い回しの起源は一体何から来てるのだろう。ひょっとして江戸時代の口達者で商売上手な油売りが起源ではないのかと考えるのもごく自然の流れなのかも知れない。それとわたくし事で大変恐縮だが、カタブツのイメージがつきまとう私の亡き父が宴会の余興でガマの油売りを演じたのは意外中の意外で今でも信じがたいことである。
 
 ガマが脂汗をかくシーンは滑稽でもあり、鮮やかな言い回しはまるで古典落語のような日本の古き良き伝統芸能を見るような趣さえ感じる。真四角な鏡の部屋に入ったガマが己の醜さに恐れをなし、油のような汗をかく。このガマの汗に様々なものを添加し軟膏の万能薬「ガマの油」が生まれる。考えてみれば自然界に鏡は存在しないので生まれて初めて己の姿を見たガマはそのグロテスクな姿に恐れおののき、「これは絶対に俺でない、きっと恐ろしい敵に違いない…」と大いにショックを受けるのだろう。蛇に睨まれたカエルが固まるように彼は自分自身の醜い姿に激しい嫌悪を示すのである。
 
 ニーチェは著書「ツァラストラはこう言った」の中で人間はたとえ不遇があっても己を愛しなさいと述べているが、こんな説法を並べたところで馬の耳に念仏、否ガマの耳に念仏。そんな哲学など普段悩みのない彼にはまったく無縁のことなのである。
 
 この鏡地獄の怖いところは驚けば驚くほど形相が醜くなり、醜くなった顔を見てさらに驚き脂汗をかくところである。ところがどっこい、この無限地獄こそガマ師(ミック造語)にとっては思うつぼなのである。(笑)ところで自分の姿を見て驚くのはガマだけだろうか?これはもしかして人間にもあてはまるのではないだろうか?
 
 負の無限回廊。私の経験上鬱になる人間のもこのパターンに近いのではないかと思う。鬱になる人間は概ね几帳面で責任感が強いと言われる。従って己の姿の映った鏡を必要以上に見過ぎているのではないだろうか?その結果鏡に見えた自分の像に恐れおののき、その鏡の中に更なる虚像を築きあげ、負の悪循環に陥ってゆくのではないだろうか?
 
 鬱になった理由を極限まで突き詰めていくとき、自分への客観視が不十分であったことに気づく。それならばいっそのこと鏡を見ないほうがいいのかもしれない。もし性格的にそれも無理ならこの鏡貼りの部屋に人間の特権である「心の扉」を設けよう。自然探索、音楽、芸術鑑賞、植物、動物…きっとこの扉を開けばこの世にはまだまだ愉快なことがいっぱいあることに気づくことだろう。人間にとって趣味を持つことは鏡張りの部屋に扉を付けるようなものである。

 今週も無事に終わった。今宵はちょっとだけうさ晴らしをしたかった。サラリーマンにとってはたまにこんな寄り道があってもいいのではないだろうか。今宵はささやかな週末の余韻を味わいたかった。私は最近いきつけとなりつつある居酒屋に立ち寄るとその余韻をかみしめながら、燗酒をぐいっとあおった。今宵もまた心の扉、趣味の扉を開くために…、そして再び鏡の中のガマに戻らないために。

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コメント

No title

ちょっと寅さんを思い浮かべました。^^;

URL | ひろ-Nyan ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

この口上は懐かしいです!('∀`)!
まだ幼い時に一度だけ、ガマの油売りの実演を見て当時は
何故、ガマの油が万能薬なのか不思議に思っていました。
確かに「心の鏡」は人間の特権ですね。一つの箱に閉じこもらず
色々な事に関心や楽しみを見つける事が人生を豊かにするのだと
思います。
今夜の晩酌も一息つかれたようで美味しいお酒でしたでしょうね。

URL | joeyrock ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

こんばんは。
ミック様は、週末の一番心休まる時間をお過ごしの事と察します。
ガマの油から、このような話の展開になるとは、さすがミック様ですね。思わず我が身を鏡張りの部屋に置いてしまいました。醜い内面が写っておりました(笑)。
最近、無性に将来が不安になる瞬間が有りますが、拝読させていただき、むしろ目先の変化にとらわれ過ぎない方が良いのかな?と感じました。今よりがむしゃらににやって良くしよう!と思うよりも、今より悪くても、自分の出来る事をやればいい、と考えた方が、むしろ心の平穏が得られる気がします。

URL | ひがにゃん ID:79D/WHSg[ 編集 ]

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今日の記事を読んで、ミックさんと一緒に飲みたくなりました。飲みながら、油を売る話からニーチェに至るまで、いろんな話をしたら楽しいだろうなと思いました。

URL | 行雲流水 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

関西の人間なので、ガマの油売りの口上は生では聞いたことがありません…。。。

ミックさんのおっしゃる通り、自分自身の外面も内面の悪いところがすべて見えてしまうと自己嫌悪に陥ってしまうでしょうね…。。。

趣味の世界という扉を開ければ、世界が広がるというお説には賛成です…。。。内へ内へと籠るのではなく自分の視線を外に広げることにより、自分を外から見れますよね…。。。

自分の良いところも悪いところも客観的に見れるようになり、これが自分なのだと開き直ることができるように思います…。。。

URL | boubou ID:79D/WHSg[ 編集 ]

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でぶひろさん、寅さん、私も好きですよ。
昨夜は酔いも手伝い、彼に成り切ってしまったのかも知れません(笑)

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

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joeyrockさん、口上のガマの油の抽出法があまりにもユニークなので以前から気になっていました。
このガマの心理と数年前の私の心理が酷似していることに気付いたのです。
いつかこの発想をエッセイに綴ってみたいと思っていました。
せっかく設けたこの扉は大切にしないといけませんね。
PS:最近、電車通勤ですので週末は一杯ひっかけて帰ることにしています。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

ひがにゃんさん、私もそう思いますね。
人間切羽詰まった時のパターンを見ると意外と目先のことの占めるウエイトが大きいのでは?と思います。
ここで野球を例にとりましょう。
強打者は投手から投じられた球を見極めるのに球そのものを注視するのみでなく、球筋(ストレートor変化球)を見極めることに集中します。
この辺に実人生へのヒントが隠されているのかも知れません。
これだけでまたエッセイが作れるのかも知れません(笑)
あらゆる手を尽くして八方ふさがりになった場合もあきらめず、やがて到来するチャンスが訪れるのを待つのも大切なことですね。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

行雲流水さん、身に余るお言葉を頂き恐縮しております。
行雲さんと飲んだら私も緊張でこの鏡部屋の中のガマのように固まってしまうのかも知れません;(笑)

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

boubouさん、鬱になった者の心理を私の体験を基に語らせて頂きました。
確かに鏡を見過ぎるのはいけないことですが、見る見ないの微妙な加減はけして誰も教えてくれるものではなく、自分で習得するものですね。
人生を生きるにはしっかりとした土台が必要ですが仕事に忙殺されると根本が見えなくなることがあります。
これからは私も自滅しないガマ?を目指して精進してゆきたいと思います。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

佐賀県にある肥前夢街道で見たことがあります。
南京玉すだれとかもやってましたよ(笑)
僕はガマと違ってショーウインドウに映るKRにまたがった自分にウットリしますけどね(笑)

URL | 雷電 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

こんにちは。

「ガマの油」の口上は、さーお立合いの最初ぐらいしか、思い出せませんが、とぎれとぎれ思いだします。
懐かしいお話をありがとうございます。

仕事帰りのちょっとイッツパイいいですね、
若いころを思いだしました。

ナイス!です。

URL | 好日写真 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

雷電さん、南京玉すだれも立派な伝統芸能ですね。
こういう大道芸も大事にしていきたい日本の古き良き文化ですね。
私もシューウインドウやステンレス鏡面仕上げのタンクローリー車に写った自分の姿をよく見ますよ(笑)

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

好日写真さん、大道芸人の歯切れのいい口上は聞いていて気持ちがいいですね。
私も鏡の中のガマにならないように深酒にならない程度に週末は飲んで帰ります。
ナイスを頂きありがとうございます。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

こんばんは

ガマの油売り バナナ売り 南京玉すだれ
寅さん 落語 どれも好きですね。
流れるような日本語が好きです♪

鏡の中のガマ 含蓄が大きすぎて 私には理解できませんが あえてそれを見たくないと逃げているのかもしれません。
他人から見える自分と 自分が思っている自分は
どちらがより自分の実像なのでしょうね。

URL | つや姫日記 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

つや姫さん、かつて鏡の中に入って負の無限回廊に陥ってしまった8年前の私ですが、それを脱出するにはどうするか?或いは予防するにはどうするかをガマになったつもりで述べさせて頂きました。
つや姫さんのご質問は難しいご質問ですね。もし自分の醜い実像が見えるのであれば直視せずに色眼鏡を通して見るべきでしょう。
何故なら自分のゾーンに入ることで鬱を遠ざけることが出来るからです。
他人から見える自分と自分から見る自分が近ければ近いほど客観視ができているということです。
トラックバック先にコメントを頂きありがとうございます。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

「ガマ師」、いい造語ですね♪ さて本題ですが、
自分を追い込み過ぎずに別の道を見せてあげる事・・・
これが本当に有効な戦術だと気づくと、途端に体が
忙しくなっちゃいますね、あっちもこっちも魅力的で!
扉を開ける事は、逃げではなく、豊かさなのだ・・・・
大事な事を再確認させて頂きました。有難うございます。

URL | 5 3 8 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

> ルンさん
追い込まれた御仁には見えないのがこの扉、但しこの「心の扉」は自分で開けなければならないものにごさいます。
他力本願ではいけない。自分の道は自分で開かねばならない。ここでものを言うのは思想哲学です。

某は以前【ファイターは相打ちを恐れてはいけない。相打ちを承知で相手を上回る強打を身につけねばならない】という旨の記事をご自身に拝謁して頂いた記憶がごさいます。

思想哲学があれば敵対する相手も恐るに足らないものとなり、心の扉は自動ドアの如く開くものとなります。
宜しければお試しください。いつでも相談を賜りたく存じます。
こちらこそコメント、ナイスを頂き感謝しております。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

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