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 人よりすぐれいい暮らしをし、いい人生を送りたい…ほとんどの人間には富や名声を得たいという欲望がある。
 
 だがそれは「大河の一滴」のような存在の人間にとって果たしてどれほどの意味のあることなのだろうか?
 
 「無事是名馬」…私はつい最近改めてこの言葉に触れ、数年前ある会社の名刺を頂いたときに経営理念としてこの言葉が書かれていたのを思い出した。
 
 無事是名馬とは文芸春秋社の創始者であり、「父帰る」や「恩讐の彼方に」など、人間の奥底に潜む深い心理や真の道徳とは何かを描いた数々の名作を残した小説家、菊池寛の造語である。
 
 
 彼は創作活動に携わる一方馬主でもあり、この言葉は単なる表面上のものではなく、馬に気遣い、馬主として心から競馬を楽しみたいという彼の心からの願いが入ったものであったという。
 
        菊地寛(1888~1948)

 ここに断トツの速さを誇る一頭のサラブレットがあったとしよう。速さにおいてはどんな馬もかなわない。
だがその馬は生涯与えられた全試合に出場し、その実力を完全に発揮できるだろうか?
 
 否、彼の経験上そんな馬はまず存在しないという。速い馬は速い馬ならではのリスク(怪我や病気)が必ずと言っていいほどつきまとうというのだ。
 
 その中で彼の持ち馬だったドラポーという馬は際立った活躍こそないものの怪我も病気もせずにステディー(着実)に多くの試合を完走し、抜群の信頼感があったというのだ。

 ここで私はこの言葉の持つ意味の重みを改めて考えてみた。例え華々しい活躍がなくてもいいのではないか?際立って速くなくてもいいのではないか?
 
 それよりも怪我も病気もせずに全ての試合に出場することのほうが大事なのではないだろうか?
 
 もちろん、これは競走馬だけの世界ではない。学校も会社も休まずに、また長い年月に渡って無事に勤め上げることほど尊いことはないのではないだろうか?

 今宵は無事もなく一週間を終えられたことに感謝したかった。私は彼が好んだ名馬ドラポーに思いをはせ、宮城県清酒「黄金澤」大吟醸の栓を開けた。
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コメント

No title

こんばんは。
若い頃は私も偉くなりたい、人よりもお金持ちに成りたいと考えていましたが、最近はむしろ、日々の仕事が無事に終わることを願っています。平凡だけど、無事に過ごす半日、一日、一週間、一月、一年…その積み重ねがここ何年かは続いているように思います。 人生の半分が終わり、野心は無くなりましたが、冷静に自分を分析できるように成りはじめたと感じています。

URL | ひがにゃん ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

毎晩、健康的な晩酌を続けたいです。
黄金澤。懐かしいお酒です。私がまだ幼稚園位の時に兄と近所を散歩していた時に迷い犬を拾った事があります。迷い犬といっても成犬なので私より大きかったのですが、連れて帰り飼い主を捜したら黄金澤の蔵元でした。
お礼にと、ちびっ子だった私達にお酒
持ってきた事を思い出しました(笑)

URL | スミチカ ID:79D/WHSg[ 編集 ]

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こんばんは。

ミックさん~、実に重く心にのしかかる言葉の数々です。
お金の満足や名声が全てでは無いと思います。
人によって欲求はことなるでしょうから~

人間の欲求ですが、マズロー(アメリカの心理学者です)の基本的欲求の頂点に「自己実現」というものがあります。人間は1つずつ満たされると上を目指しますが実は自己実現の上の「自己超越」という欲求に向かうそうです。キリがないわけです。
結局、果てしない…ことになりますね。
そう考えると、人それぞれ違いますが、ささやかなことでも喜びを感じ同じ事でも毎日、着実にやり遂げることが真の自己超越かもしれません。
…などと、本気で今夜は考えていました。

だから、地酒をゆっくり飲めるミックさんも、
プリンを美味しく食べる私も…
これ以上望む事無し! でしょうか~(*^-^)ニコ 長々と…失礼しました。

URL | ミント ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

ひがにゃんさん、菊地寛の言葉は哲学的であり、私自身、身にしみる言葉です。
人は価値観的に物事に秀でることにばかりばかり考えますが、本質はそうでないという彼の思いがようやくわかってきました。
でもそういう彼自体が太く短く破天荒な人生を送ったのは皮肉なところなのかも知れません。
とにかく彼の小説は深い、人間の本質に迫ったものが多いので注目しています。
今後、ブログで紹介できればと思っております。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

スミチカさん、大変いいお話を聞かせて頂きました。
やはり伊達者であることのサガなのでしょうか、こういう義理と人情の話に思いを馳せて飲む酒は広大な大崎平野で採れた宮城米と奥羽山脈の雪融けから湧きでた名水から作られる宮城清酒(地酒)に限りますね。

私も昨晩はこの菊地寛の言葉に思いを馳せるなら地酒しかないと考えました。
そのシーンによってバリエーションを変える、これも晩酌の楽しみの一つですね。
PS:新潟も酒処なのでかなり気になっております。(笑)

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

ミントさん、これまたいいお話を聞かせて頂きました。
こういった思想は大好きなのでマズローのことには非常に興味をひかれます。早速、図書館をあさってみます。

無事是名馬と言われるには多くの試練を越えなければなりません。
日ごろの節制、公私を含めた周囲への対応、倫理に支えられた強い信条…これらをすべてクリアすることはバランス感覚が求められ、ある意味で一芸に秀でることよりも難しいことなのかも知れません。

野球で言えば衣笠幸男、大相撲で言えば青葉城…彼らの歩んできた道が非常に尊く感じられる昨今です。
PS:奥の深い考察を頂きありがとうございます。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

深いお話ですね。
皆さんのコメントも深いです。
私もあと数年で50になります。上を目指すという欲求よりも、自分がこうありたいという欲求を優先してきた結果、可もなく不可もなく平凡な日々を送ってます。でもこうありたいという思いは漠然としていて、明確な目標値がなかったのが今の自分を作り上げてます。
今後の人生、何事も期限と値を決め、具体的な行動で違った展開を目指そうかな(^-^)/?

URL | gt_yosshy ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

gt_yosshyさん、人によって或いは年齢によって価値観は違いますが、私の周囲を見るにつけ、経験値としてこのような傾向を感じるのです。
やはり最後まで休まずに無事に出場し続けることは、どんな世界でも尊敬に値することでないのかと思います。
鉄人として有名な広島カープの衣笠、プロレスのルーテーズは私も最も尊敬する選手です。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

ミックさん
ヤマハのエースライダーであった、あの平忠彦も
現役時代の座右の銘は、「無事是名馬」だったらしいですよ。^^

エディローソンも、ステディ・エディと呼ばれてましたし。
堅実な走りをしてチャンピオンになりましたよね。

ただ、、
ライダーとしては短命でありましたが、全盛期のフレディ・スペンサー。
キングと呼ばれたケニーロバーツを若干19歳で破った
誰にも真似できない圧倒的な唯一無二の天才的ライディング。

そういうのも魅力的ではあります。^^;

そういう人は、そういう星の下に生まれたということで・・
短命だったとしても、そういうふうに生きるしかない宿命にあるのかもしれませんね。

URL | ひろ-Nyan ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

「無事是名馬」、ちょっと別の解釈としては、一日に千里を走る馬よりも、馬上の主を無事に目的地まで送り届けるのが名馬だというのを聞いたことがあります…。

ちょっと速く走れたり、長く走れたりしても、途中で走れなくなったり、物にけつまづいて主を振り落としたりするようでは名馬ではないということです…。。。

男でいえば、大して出世をしなくても最後までちゃんと家族を養い責任を果たせばOKということでしょうか…。。。私も、この線で人生をまっとうしたいと思っておりま…。。。

URL | boubou ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

でぶひろさん、平忠彦は秀でたライダーでしたが座右の銘が無事是名馬であったとは意外ですね。
無事に走り切り勝負に勝つ、これに勝ることはありませんね。
ステディと呼ばれるライダーは確かに魅力がありますね。
一時カワサキに籍を置いたアーロン・スライト(ニュージーランド人)なんかもステディだったと思います。
古くは金谷秀雄なんかもステディで速いライダーとして印象に残っています。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

boubouさん、その解釈は実績を伴ってこそ名馬という解釈ですね。
最後の部分とともに共感します。

菊地寛はこれを地でいけなかったわけですが、作家という仕事柄わからないこともないですね。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

ミックさん、こんにちは。

そうかも知れませんね、一時の栄光より、目立たなくても怪我、病気の無く過ごせる事が良いのでしょうね。

人生それぞれですから、何ともいえませんが。

URL | 好日写真 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

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好日写真さん、このドラポーという馬は丈夫で長持ちというタイプの馬のようですね。
こういう考えは若い時にはなかなか思いつかないものなのかもしれません。
この言葉は「無事是貴人」をもじった言葉ですが、その真意をよく聞くと菊地寛の非凡さを改めて感じる言葉でもあります。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

変らない日常の中にも、そのありがたさを実感できるような
暮らしがいいですね。華やかな暮らしでなくとも、健康で
生活をおくれる大切さは何にもかえ難いものだと思います。
その幸せを大切にしたいと思っています。

URL | joeyrock ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

joeyrockさん、この記事を書くに至った理由は私の周りで比較的早世されたかたが多いということによるものです。
私は昨今、この方たちが身をもって残した教訓がこの言葉であると感じております。
よってこの言葉は菊地寛のみならず、私の経験から学んだ言葉でもあります。
心身の健康第一に感謝の気持ちを忘れずに、この言葉の意味をもう一度よくかみしめ生きていきたいと思います。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

はじめまして。菊地寛の愛読者です。差し出がましいようですが<(_ _)>
「恩怨の彼方に」ではなく、『恩讐の彼方に』です。意味がだいぶ違ってしまいますので。

URL | midoriko ID:79D/WHSg[ 編集 ]

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midorikoさん、初めまして。先ほど訂正しました。
大変失礼しました。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

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