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ある日突然…
ちょうど数日前のことだった。駐車場に車を止め、会社に出社しようとした私の携帯電話がけたたましくなった。知らない番号だったが、どうせ仕事の都合だろうと思って出たみた。
すると相手は面識のない年輩の女性だった。
 
「横町利郎さんですか?」
「…???…はい。」
「実は私はアメリカに嫁いだ者で、亡くなった弟の供養に現在帰国しています。弟の携帯に登録してあった電話番号をいろいろ探しているうちに横町さんの名前が出てきたので思い切って掛けてみました。」
「はあ…。」
「今回里帰りした目的は弟の墓参りだけでなく、弟が生前別れた昔の奥さん(義理の妹)と子供二人の住所を知り、会いに行きたいのです。」
 
彼の名はMさん、仕事を通じて十年ほど付き合い、私の東京転勤を機にやむを得ず疎遠になり、6年前仙台に戻って来るなり、再び会う機会なく他界したかたである。(享年68歳)彼にはちょっとした事情があり、元奥さんや二人の息子と生き別れになっていたのだ。
 
「横町さんは今のかたなのでパソコンが得意でしょう?それを利用して元義理の妹と甥の行き先を探してもらいたいのです…」アメリカなまりのある日本語で彼女は一方的にしゃべりまくった。しかも自分の名前も告げない…。私は電話の陰に人にものを頼むにしては何か腑に落ちない言葉遣い、態度を感じた。
 
私はリダイヤルに番号が入ったのを確認すると「すみません。もうすぐ会社が始まりますので、また後で。」と告げ電話を切った。この時は会社が終わったらリダイヤルでかければいいくらいに考えていたのだ。
***
会社が終わると私はその番号にリダイヤルしてみた。すると男の声で「はい、Kホテル(仙台市内のビジネスホテル)です。」との返答。彼女はホテルの一室からこの電話をかけていたのだ。しかも名前がわからないのでどうしようもない。せっかくMさんの墓所を聞き、今まで出来なかった墓参りが出来ると思ったのに…。私は落胆し、「すみません間違いました。」とフロントマンらしき人に告げ、電話を切った。
 
私は帰宅すると何か虚しい気持ちになり、在りし日のMさんを偲んだ。彼は私と妙に似たところがあった。我が強く、世渡りはお世辞にもうまいとは言えなかった。そして麻雀と酒が彼の生きがいだった。もしこれだけだったら彼はさして印象に残る人物とは言えなかっただろう。
 
…回想…
 Mさんの徳に気付いたのは今から12年ほど前。彼は無類の読書家であった。愛読書は文芸春秋。出張のときも宿には日本酒と文芸春秋があれば文句のない人であった。彼は文字から知識を吸収し、世界情勢や政治経済にも強く、自らの人生にポリシーを持って生きていた。そして私はそんなMさんをいつしか先輩として慕うようになったのである。
 
だから5年半前に突然彼の死を知ったときはショックだった。心の支えをなくしたような感じだった。せめて墓参りをして供養したい…だが彼の身内の連絡先がわからず、墓所は調べようもなかったのだ。やはり彼とは縁がなかったのか…。
 
…再び現在へ…
 半分あきらめかけた私の携帯電話が再び鳴ったのは三日後の日曜日のことだった。
「Mの姉です。一昨日は名前も告げず、ホテル住まいであることも告げずに大変失礼しました。」
「いえいえ。」
「実は義理の妹家族の消息が掴めたのです。私は義理の妹とアポを取ったあと、すぐ北海道行きの航空券を求め、木曜日(きょう)仙台を飛び立つことにしたのです。」
「それはよかったです!」
「横町さんにはご足労お掛けしました。なんなら弟の墓所を教えましょうか?」
「是非お願いします。」
 
というわけで、この日仙台市北部のこの墓地で彼の墓所探しが始まった。小高くなった丘から南側を望むと旧道越しに仙台市街のビル街が浮かび上がる。

墓所探しと言ったのは広大な墓苑の中に存在する墓所の区画記号がわからず、墓碑名と所有者名簿からあたるか一つ一つ墓碑名をシラミつぶしに見ていくしか方法がなかったからである。当初一つ一つ見て探したが、目指す墓がなかなか見つけられずに管理事務所に行って聞いてみることにした。
 
当初、所有者と墓碑名(○○家の墓)は同一と思っていたのは私の思い込みであり、全くの見当違いだった。彼の眠っている墓所の所有者はこの家から嫁いだ上の姉(彼には姉が3人いる)の所有になっており、墓碑銘とは姓が違っていたのだ。

そして1時間半に渡る悪戦苦闘の末、ついに彼の墓を発見した。彼は低くなった住宅地を見下ろせる閑静な場所に眠っていた。私は彼に頭を垂れこう語りかけた。
 
「早いもので5年半が経ちましたね。Mさんのおかげで私も本を読むようになりました。そして本を読むことで幾分煩悩から解放さるようになりました。とても感謝しております。」雲雀だろうか?高く蒼く澄んだ秋空に小鳥のさえずりが高く響き渡った。波乱万丈の人生の中に光ったMさんのエスプリ、そんな思いが小鳥たちに通じたのかも知れない。


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コメント

No title

yokoさん、逆の発想からのお言葉、とても身にしみました…。
故人を偲ぶ時、往々にして生前に語り尽くせなかったこと(自分のこと)が浮かぶものですが、もっと深く相手の立場に入りこんだときに初めてyokoさんのようなことを感じるのでしょうね。

この日は高く澄んだ秋空の彼方に彼の笑顔が見え隠れし、とても澄んだ気持ちになれました。
彼の遺志がそうさせたのかも知れません。
現世の人とのつき合いとは何なのかを教えて頂いた昨今の出来ごとでした。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

ライトさん、エッセイというよりも、結果的に情が深く入り、構成が私小説的なものになってしまいました(笑)

当然のことながら墓参りに行く時は生前とは全く違った心境になるわけですが、昨今はこのことが自分を見つめ直す原点であり、きっかけになるような気がしています。

これは肉親、知人を問わずだと思います。
墓参りの後は非常にすがすがしい気持ちになれますね。
煩悩を取り去るまではいかないまでも減らしてくれることは確かです。

この日の澄んだ秋空に見えた彼の笑顔はいつまでも私の心の中に深く残ることでしょう。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

おはようございます
劇的なお話ですね
昨年亡くなった 小学校からの後輩で弟の同級生
バイク仲間だったので 長く付き合っていたのですが
別の友人から近所の墓地に納骨されたと聞き
早速行ってみたのですが
彼は在日だったのですが 日本名しか知らずに
探し回った挙句 僕の弟に電話で聞いたら
なんと目の前に立っていたんです

URL | - ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

事実は小説より奇なり、まさにそんな感じです。本当に人は様々、いろんな生涯があるのですね!!! お墓参りで思い出される事が多いのです。

URL | 行雲流水 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

ミックさん、こんにちは。

そうですか、60歳では早すぎますね。
でも思いがけずに墓参りが出来、Vさんも喜んでいるのではないでしょうか。

URL | 好日写真 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

あぶさん、けして見返りを求めるわけではありませんが、故人の供養をすることは自分自身の心が洗われる思いであり、煩悩の負担を軽くしてくれるような気がしております。
幾分煩悩から解放されたこの日はVさんの供養の後、秋の好日の散歩をしばし楽しみました。

あぶさんの体験談、しっかりと承りました。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

行雲流水さん、この日は墓を見つけてから、なるべく生前の故人に成り切るよう努めました。
Vさんから見た私は果たしてどう見えたのか?失礼や粗々がなかったのか考えてみました。
人間のサガとして自分に不利なことは水に流したいものですが、私自身、正面からそれに向きあい、後ろめたさも感じました。
私のつたない気持ちが彼の供養に繋がればこの上もなく幸いと思います。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

好日写真さん、Vさんの享年は68歳でした。
私は彼が50歳の時から18年に渡っておつき合いさせて頂いたのです。

彼から学んだ一番大きなことは「読書が煩悩を和らげ、人生を豊かにしてくれることです。」
これは私にとって大きな教訓でした。
人生という名の大航海を成し遂げるための手段。
昔で言えば羅針盤といったところでしょうか?
その手法を私に示してくれた彼には感謝しなければなりません。
この日は墓前でそのことへの感謝の意を伝えて参りました。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

こんばんは。

小説よりも奇なり…
そんな思いでしたよね~!でも何が起こるか判らないものです。
大切なことは起きた現象に向き合うこと…
いつもそう思い葛藤しながら1つずつこなしています。

そう言えば私も気がかりな事がありまして、
二十歳過ぎに(現在の年齢はともかくとして…(-_-;))友達が一人亡くなっています。そんなに凄く親しいという訳ではありませんでしたが、いつか彼女の仏前に…と、なかなか行けず今になっています。今、私にもそんな電話が来たらいいなぁ~。と思ってしまいました。

人に出会った分だけ教えられる事がありますね。

ミックさん、安堵の気持ちではないでしょうか~
ナイスです。お疲れ様でした!

URL | ミント ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

ミントさん、電話一本から始まった今回のいきさつですが、なにか運命的なものを感じました。
Vさんと私の双方の思いが通じたのかも知れません。

知人が亡くなってから遺族の連絡先がわからなくて墓参りにも行けないことはよくありますが、Vさんもその中の一人で気になっていたのです。

墓参りでそのかたの生前を偲び、いろいろと語り合うことで自分の心も落ち着きます。
この日は私の未熟の致すところでもあり、生前に伝えられなかったことを中心にお話をしてきました。
広義において人生を生きる上での普遍的教訓を頂いたVさんには深く感謝しております。

ナイスを頂きありがとうございます。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

Vさんが会いたがってたのかもしれませんね。
5年ぶり。。。震災で沢山の思い出が流された町で
Vさんのお墓が無事に残っていたこと。。。良かったです。

URL | まゆ ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

まゆさん、ここは海から相当離れていますので津波の影響はありませんが墓石が倒れたところはあると思います。

この日は約7年振りにVさんとの昔話に花を咲かせて来ました。
この不思議とも言える巡り合わせは確かにお互いの気持ちが通じたせいなのかも知れません。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

「読書が煩悩を和らげ、人生を豊かにしてくれることです。」
深い、深いですね。
活字が苦手な私ですが、何か興味のある分野の本でも読んでみます。

ところで私も疎遠になりがちな友人と、インターネットやケータイに助けられて何とか交流が続いていますが、昔では考えられなかったことです。日常を共有することで疎遠になりにくくなりますしね。
個人情報保護が叫ばれてからは中々友人を探すことも難しくなりましたが、Facebookなど逆の流れもありますよね。(ちょっとこわいですが)

Vさん喜んでますね。

URL | gt_yosshy ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

不思議なお話ですね。色々な偶然が重なってミックさんに電話がいき、お墓参りが出来るなんてミックさんの人徳なんでしょうね。
けさ、テレビをつけたら別人だとは思いますが英語訛りの日本語を話す年配の女性がいました。その方 のミドルネームがヴァージニア。Vさんでした。

URL | スミチカ ID:79D/WHSg[ 編集 ]

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gt_yosshyさん、四十台半ばが私の中の分水嶺(水が太平洋側と日本海側双方に流れることの中で境界を示す言葉)だったような気がしております。
この年代はVさんから受けた影響が相当ありました。
それは歴史への興味と、読書へのいそしみです。
現在の私にはこの二つのことが煩悩の低減に大きく寄与しているのです。
人生観を変え得る読書はどんどんチャレンジすべきである…このスタンスは今だ変わるところがないばかりか、今後益々私の人生に影響を与えていくことでしょう!

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

スミチカさん、人徳というより運が良かったと思っています。二度と会えないと思っていた人に再会する…NHK総合TVの{あの人に会いたい」という番組がありますがそのシュチエーションとも酷似しています。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

ミックさん こんばんはぁ~☆!

慕っていらした亡き先輩のお姉さまから
突然の電話、ビックリしますよねぇ。
でも、やむなく疎遠になってしまっていた、
親しかった方のお墓参りが出来たことは、
本当に嬉しいことですよね。
きっとVさんも、ミックさんが来てくれたことを
本当に喜んでいらっしゃったことでしょうね。

私も、この記事を読ませて頂いたことを何かの
ご縁と思い、Vさんのご冥福を心からお祈りいたします。

ナイス!☆

URL | Maya ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

Mayaさん、実は昨日アメリカに帰国する直前のVさんのお姉さんと会ってきました。
これは初耳でしたが、Vさんの生前のことをお話するなかで印象に残ったのが彼のスケッチの趣味でした。
遺作を拝見させて頂いたのですが、彼のスケッチの対象は様々な人物画でした。

オードリーヘップバーン、相撲の横綱、将棋の名人、三国志に登場する人物…彼の人となりを思うに、おそらくこれは書物で感動を受けた人物をスケッチしたものと推測しました。

この中で最も印象に残ったのが大相撲の取り組中の横綱若乃花の顔のアップです。
これにスポットを当てるかたはほとんどいないのでは?とも思いました。
この絵の中には私欲を捨て、無心で相手に全力でぶつかる相撲道の精神が見え隠れしたのです。
彼には相撲の神が見えたのかも知れません。
彼の絵は人間の本質を見極めているようなものがありました。

お姉様に接し、彼のいい供養が出来たことを幸いに思います。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

ミック様へ
ミック様は素晴らしい。そして優しい方ですね。こんな方がおられる事が本当に素晴らしい。私はその姉の方よりミック様のその行為に感激しました。今の時代にそこまでやる方がいる。驚きました。私の親友の男みたいですね。あんな事をするのはあの男だけかと思っていました。長年生きて来ましたが。これで二人目です。私はミック様にお会いした事はありませんが。この話は本当に素晴らしい。私はミック様を尊敬します。ミック様、これからも何卒宜しくお願いします。ミック様と知り合いになれたことに感謝しております。また私は物だけではなく人にも恵まれているのではとあらためて思いました。ナイスです。有難うございます。

URL | 不あがり ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

不あがりさん、この上もないお言葉を頂戴し、ただただ恐縮しております。
また過去の記事にコメントして頂いたことを深く感謝します。
実は今朝、貴ブログにコメントした内容で「人はなかなかジャストタイミングで意中の人と出会えない旨」をコメントしましたが、何を隠そう、そのジャストナウの人物こそ不あがりさんでした。
そうは思っても懇意の過多は失礼にあたると思い、自重して投稿させて頂いたのです。
今宵はこの劇的な出会いに感謝したいと思います。
今は万感募る思いであり、上ずってさえおります。これには少し冷却が必要なのかも知れません。
私こそ尊敬しております。本当にありがとうございます。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

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