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 江戸時代の旅は日本人に何をもたらしたのか
 時は江戸時代、参勤交代のための五街道の整備、そして宿場町の出現により全国の道路状況がこれまでとは全く変わっていった。そして徳川政権が安定した生活をもたらし、人々はそれまでの衣食住だけの生活から解放され、徐々にゆとりや楽しみを求める気風が庶民の間にも広がりつつあった。
 
 旅行好き、歴史好きの私は人々の間に旅行という概念が一挙に広がった江戸時代のころの旅は以前から興味津々であり、そのような企画展示があったら是非行ってみたいものだと考えていた。そんな私に願ってもない機会が訪れた。それは今仙台市博物館で開かれている特別企画展「江戸の旅」である。
 
 この展示会は江戸時代に急速に広まった旅の習慣が、全国のそれまでの定説だった名所だけに焦点を当てるのでなく、新たな地方名所の発見、各地で異なる風俗を見出し、旅が時代を追うごとに豊かなものとなって行った過程を多くの文献や絵図、旅道具などにより紹介しており、歴史ファン、旅行ファンのみならずとも興味深く、また内容の濃いものになっている。
 
 また江戸時代の前期と後期では旅の内容もまったく異なるもので、時間が経つほどに旅がより趣味性の強いものへと変わりつつある傾向を顕著に表すものとなっている。きょうは、読者の皆さんに今回の展示会の見どころである有名絵師の絵画を紹介しながらお伝えしていくことにする。
 
※ここが仙台市博物館である。

仙台市博物館中庭

航空写真で仙台市博物館の位置を確認して頂きたい。
伊達政宗の築いた仙台城三の丸跡に造られたのがこの博物館である。

 まずこの客引きを見て欲しい。これは江戸時代の旅籠の客引きである。滑稽にも見えるが、まるで客がいびられているかのようにも見える。宿の制度が無秩序であった江戸初期の旅館はこのような客引きは当たり前で、ほとんどが見知らぬ者同士の相部屋だったのでだましや盗難なども多く、結構物騒なものであった。
 
 自分の身を守り、また所持金を盗まれないためにも小刀の鞘を改造して金を隠したり、護身として使用していたアイテムも展示されており非常に興味深い。また芥川龍之介の「藪の中」や菊池寛の「恩怨の彼方に」、坂口安吾の「桜の森の満開の下」等の小説にも山賊や追剥が登場するように、治安の低かったこの時代の旅は命がけだったと言ってもけして言い過ぎでない。

 そんな旅人にとって一日歩き通して疲れた体をようやく旅籠にたくし、安堵感に包まれながら食べる食事はおそらく大変なもてなしだったのではなかろうか?旅籠の食事のレプリカが展示されていたのでスケッチしてみた。
 
 絵心がなくて恐縮だが、雰囲気だけでもお伝えできればと思い恥を偲んで掲載する。これは今で言えば、「焼き魚定食」といったところだろうか?結構バランスも取れており、江戸時代の食文化のレベルはけして低くなかったようである。

 これは田楽定食で、地方によっては各地の名産品がそのまま旅籠の食卓にのることが多かったようである。他には餅の定食も展示されていた。

 展示室は撮影禁止のためこれらの作品は私が展示物の作者と作品名をその場でメモし、後にインターネットから取り出したものである。
 細井平洲の描いた松島(1771年ころ)、それにしても風情がある…日本三景の趣が十分に伝わってくる。

 司馬江漢、駿河湾富士遠望図(1799年)、遠近法を用いた写実的な絵、当時洋風絵師として名を馳せた彼の手法は日本画一辺倒だった当時の芸術に大きな一石を投じたことだろう。

同江之島見淵眺望(1789年~1801年)

歌川広重の名所江戸百景(1856~1857)

 

 

 この時代(江戸後期)になると宿場町がより栄え、江戸は益々賑わいを増していった。また人々の関心は歌舞伎や浄瑠璃にも向けられるようになっていく。その後明治時代を向かえ旅は庶民の大きな楽しみとなって益々存在感の大きなものと成長していく。
 
 人間にとって旅は好奇心と冒険心を満足させてくれる大きな手段であり人生に大きな生きがいをもたらしてくれるものである。我が国において、旅という概念が定着した江戸時代に改めて着目し、その意義の持つ大切さを噛みしめたいものである。
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コメント

No title

江戸時代の旅の様子は時代劇で観るか書物などで読むなどしてしか
朧気な印象ですが日本の歴史をこのような展示会で体験するのは
ロマンがありますね('∀`)
特に道中の旅などは今とは違い、本当に命がけだった事と思います。
食事も今より体に良く害の無いものが沢山あったと思います。
足で歩き、バランスの良い食事をとっていた昔の方の方が
丈夫だと日頃感じます。
絵画からも知れるように、旅の生きがいや楽しさを知れたような気が
しました。

URL | joeyrock ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

ミックさん、今晩は。

江戸時代は女の人の旅は許されないと何かで読んだ事があります。

この時代の旅は命がけでしたのでしょうね。

ナイス!です。

URL | 好日写真 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

江戸時代に旅の概念が定着した、成る程と納得しております。そして素晴らしい絵画を通じて旅の歴史を知る事ができる、こんな展示会はなかなか見ることが出来ないでしょうね。ミックさまが連れて行ってくれました!

URL | 行雲流水 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

こんばんは。
江戸時代の旅は、自分の足が頼りですから、さぞかし苦労があったでしょう。山賊、おいはぎ、関所、色々な関門があり、確か、旅籠の宿泊代は、かなり高く、今の数万から数十万に相当する、と聞いた記憶が有ります。
司馬江漢の絵は、流石ですね。かなりの影響を与えた事は、間違いないですね。

URL | ひがにゃん ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

joeyrockさん、現代は旅行という概念がすっかりポピュラーになりましたが、江戸時代初期の松尾芭蕉のあたりは珍しく、おそらく好奇な目で見られたのでは?と思います。
この企画展で聞いた話で印象に残っているのは「旅には表向きの口実(侍なら参勤交代やいろいろな取り締まり等のお勤め、町人なら寺社巡り、各所巡礼等の目標)と本音(人間が元来持ち合わせた好奇心を充足させる行為)の二通りが存在する。」という言葉です。
もちろんこれは暗黙のうちに現代にも引き継がれていることです。

元来人間の持ち合わせた本能とも言える旅行願望は大量の物流や情報の往来を促し、やがては経済の活性化に繋がっていく。
この企画展が注目に値するのは、この過程を極めて興味深く写実的に表している点です。

特に徒歩しか手段のなかったこの時代の携帯グッズ(携帯枕、小物入れ、携帯蝋燭、煙管…)はがさばることへの対策でしたが、極めてマニアックであり、より快適な旅を求めた往時の旅人の趣向が感じられました。

快適過ぎる?とも言える現代の旅を思うにつけ、まさに「温故知新」という言葉がピッタリ当てはまる今回の企画展でした。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

好日写真さん、基本的にはそうですが例外として国替などで女性も移動しなければならない理由があるときはそれに乗じて旅をしました。
その中である侍の奥方が道中を絵入りの日記につけ事細かに表しているコーナーが存在しました。
男尊女卑のこの時代、旅を楽しむのは男の特権?のようにも感じられますがけしてそうではなかったようです。
もっとも女の一人旅(長旅)はまずあり得ないものだったようです。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

行雲流水さん、そう言って頂きありがとうございます。
おっしゃる通り、旅と歴史との両方が味わえる企画展はそうあるものではありません。

いろいろなものに不自由だった時代に芽生えた人々の旅願望がやがて物流や経済の対流を促し、大きな発展へと繋がっていく。
一昨日はその感動に触れることができたことをここに報告させて頂きます。
もちろん、温故知新も感じて参りました。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

ひがにゃんさん、旅籠のランクですが二食付いたちゃんとした宿もあれば素泊まりだけの二足三文の「木賃宿」も存在したようです。
このような食事の付く宿はおそらく高かったと思います。
宿に当たり外れがあったこの時代、上方には浪速講なる良宿の連合も出来たとのことも企画に展示されており、非常に興味深く拝見してきました。

私はどちらかというと日本画よりも洋画に興味がありますので江戸時代の司馬江漢の洋画は特に斬新に写りました。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

昔も今も旅をすることで人は見聞を広め
心が豊になるんですよね。
更に 旅は人の気の流れを変えるのに良い効果が
あるそうです。 パワースポットだけじゃなく
人の集まる人気の観光地で活気に包まれたり、
海や山の美しい景色を見ることで 気の流れが
良くなるんだとか・・・ 旅行って必要なもの
なんですよね。 そう思う人が増えてくれれば
観光業も、もうちょっと活気が出てくるかな? ^^

URL | まゆ ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

江戸時代の旅は、主に伊勢参りなどの目的があり、その土地を背負った物が多かったと聞きます。
一方で、風光明媚な土地を探し、自由に放浪した旅人も多かったようですね。

その土地の食べ物を頂くというのは、旅の最大の贅沢だったでしょう。
田楽定食、今でも食べてみたい一品ですね。

URL | みきてぃ ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

まゆさん、非常にいいお話を聞かせて頂きました。
確かに観光業の景気はその時代の経済と密接な関係がありますね。

江戸時代、名所は人々の噂という相乗効果によってどんどん評判になって発展していったことでしょう。
これは宿も食事処にも同じことが言えます。

我々現代人は多くの先人たちの築いた旅という名の財産を譲り受け、これをより魅力的なものに発展させ、後世に伝えていかねばならない義務を負っていると思います。

その第一線で働くまゆさんに敬意を払い、私も微力ながら本ブログを通じて、観光名所のアピールに努めたいと考えております。
今後、経済の発展とともに観光業の景気がよくなりますことを心よりお祈りしています。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

ライトさん、伊勢参りも有名ですが、小説「足摺岬」にも登場する四国八十八ヶ所の巡礼のお遍路さんは昔から有名でしたね。
非常に興味深いことですが、江戸時代の旅には既に本音と建前が同居していたようです。

侍も町人も表向きにはお勤めやお札参りといいつつも、実はまだ見ぬ名所を見たい、いい宿に泊まりたい、土地の名物を堪能したい…という本音の充足に当てられたのです。

これは今ももちろん引き継がれています。
その気持ちが観光の発展に拍車を掛け、日本に更なる景気の発展をもたらすのです。

今回の展示会ではこの構図を顕著に知ることが出来、私自身非常に満足しております。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

ミックさん こんばんはぁ~☆!

また、数日ご訪問出来ない日々になってました・・・
と言うのも・・・その一つに私自身の、おたふく風邪
疑惑があって・・・昨日病院に行って、違うことが
判明して善かったんですが、まだ耳の後ろから首に
掛けて痛みが少しあるので、早めに寝ちゃいました・・・

私も、旅はとっても興味があります。でも、仕事で、
ここ数年、中々旅が出来ず、何処かへ行きたくって
うずうずしてます・・・

江戸時代の旅、興味深いですよねぇ~~!!
「東海道中膝栗毛」で小さい時に読んだ
光景が頭の中に広がって来ます。
今の様に安全に旅をするのは、大変だったんですね・・・

ミックさんの絵、とってもわかり易くって、素晴らしい
ですよぉ~~!!

ナイス☆!

URL | Maya ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

Mayaさん、おほめ頂きありがとうございます。
ご自身の体調は最優先されるべきだと思います。
ブログは余裕ができたらという姿勢が大切です。
これは先日「SNS依存症候群」の中で述べさせていただきました。
アナログ時代の良さをもう一度見つめ直すとともに、私自身もそうならないように努めております。

この展示会を見て、江戸時代の旅が人々の好奇心を満たすとともに経済発展に寄与したのを改めて実感しました。
私も旅には憧れますね。
でも現役時代はいろいろ制約があって難しいものがありますね。

Mayaさんの夢が実現できることをお祈りしています。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

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