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特攻隊隊長ながら、出撃命令が出ないまま終戦を迎える
昨日8月15日は終戦記念日だが、きょうは終戦にちなんだ文学作品をお伝えする。
自らの稀なる戦争体験を小説に綴った作品「出発は遂に訪れず」(昭和37年、島尾敏雄作)
               島尾敏雄(1917~1985)

 奄美諸島の加計呂麻島は隣の沖縄本島と違い、終戦当時爆撃は受けたものの米軍の侵攻は受けていなかった。海軍士官だった島尾はそんな島に人間魚雷艇の特攻隊隊長として派遣された。もちろんその任務の遂行は死を意味するものであった。
 
 加計呂麻島は美しい島だが当時はここにも戦争の影が忍び寄っていた。近年はフーテンの寅さんのロケが行われたことで有名である。

                    粗 筋
 時は間もなく終戦を迎える昭和20年8月13日、場所は奄美諸島の加計呂麻島、27歳の主人公(島尾敏雄)は魚雷艇で敵艦に体当りする特攻隊隊長(海軍中尉)としてその出撃命令(死を意味する)を待っていた。彼はやがて来るであろうその瞬間に向けて、生への執着との葛藤に悩まされる。しかしくしくも8月15日の終戦の報によって突如その出撃を止められ、命拾いする。
 
 しかし安堵も一瞬のつかの間、酒気を帯びた先任下士官に「隊長、あなたは帰れるつもりでいるのですか?この戦争の責任は士官がとらなければいけないのです。覚悟しておかないといけません。士官は全部処分されるかも知れません。」と言われ、彼は再び気をふさいでしまう。

                    読後感想
 島尾は、もうすぐ死ぬと思っても睡眠欲や食欲は無くならないことを改めて知る。そしてそのことで矛盾を感じ、強い虚無感に襲われる。その気持ちが死を嫌悪し一層の恐怖に自己を陥れる。
 人間の本能は生である。その本能に立ち向かわなければならない特攻隊を率いる隊長の島尾、そんな彼が自らの死に直面した時の鬼気迫る状況が心の葛藤となって文中から伺え、思わず手に汗を握る。
 
 切羽詰まった状態が8月13日、14日と二日間続いた後、くしくも終戦を向える。彼は戦死せずに済んだが下士官の言葉によって再び恐怖に戻される。戦死の恐怖を免れたあとに島尾に待っていたのは士官としての戦争責任であった。軍人でありながらそんな彼に生身の人間の弱さを見い出し共感を覚える。
 
 もし彼が戦死していたらこの作品は残らなかっただろう。読者をまるで特攻隊になった気分にさせる本作、第一線で戦死せんとし奇跡的に助かった自らの稀なる体験を綴った島尾敏雄の超現実的作品に改めて拍手を送りたい。

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