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彼は荒れ狂う足摺岬の海を吠えたてる幾十ものけものがおしよせるようにと著した。 
そして…以下小説「足摺岬」より抜粋 
 
 重たく垂れこめた雨雲と、果てしない怒涛の荒海との見境もつかぬ遠い崖から、荒海のうねりが幾十条となくけもののようにおしよせて来ていた。そのうねりの白い波がしらだけが真暗い海の上にかすかに光ってみえた。それはうねりの底からまき上がり、どうとくずれおち、吠えたてる海鳴りをどよませながら、深い崖の底に噛みついては幾十間とわからぬ飛沫となって砕け散った。にぶい地響きがそのたびに木だまのように尾をひいて共鳴りを呼んでいた。
 
 …それにしても悲壮感極まる壮絶な表現である。(足摺岬想像図byミック)

小説「足摺岬」作者田宮虎彦(1911~1988)

 小説足摺岬は1954年に映画化された作品でもある。主人公(作者の田宮虎彦)は、神戸市に生まれ、第三高等学校を卒業する。東京大学文学部国文学科に入学し苦学をしていた。
 
 彼(以下主人公)はその時の境遇を「菊坂」という作品に次のように記している。23歳の主人公は東京の菊坂という町のある下宿に住んでいた。肺を病みながらもそこで、八重という女とその病弱な弟義治に出会う。しかし左翼運動疑惑で逮捕され、仕事(今でいうアルバイト)にも失敗する。ある日、隣室に住む中学生の福井が追いはぎの疑いをかけられ警察に検挙される。その後すぐに冤罪であることが判明され釈放されるが、そのときのことで福井は警察に対し不信感を抱き自殺してしまう。また福井の自殺から間もなく、主人公の母の病死が父からの手紙によって知らされる。さらに心を寄せていた八重もある事件がもとで故郷の四国の最南端、足摺岬近くの実家に戻っていく。
 
 人生に絶望した主人公は、死を覚悟しその場所に辿り着いた。その場所とは八十メートルの断崖を擁し、絶えず怒濤の波が打ち寄せてくる足摺岬であった。そしてその時の自らの鬼気迫る命の切迫を小説「足摺岬」に著した。

 主人公はここで「諸国商人定宿清水屋」と書かれた遍路宿に宿泊する。彼は足摺岬の怒涛の荒海と夢の中に出てくる幻覚の区別ができないほど憔悴(トリップ)していた。彼はある日断崖から投身自殺を図ろうとするが、同宿の老遍路や薬売り、宿の女主人やその娘の八重らの懸命な看病と献身的な愛情を受け一命をとりとめる。
 
 (女主人「馬鹿なことはせんもんぞね。」 薬売り「学生さんよ、生命を粗末にせらんぜよ。」…)
みんな辛い傷跡を背負っていたが、親身になって励ましてくれるのだった。そして老いた遍路はこう言った。「死ぬ理由はいろいろつけたがるが生きる理由は一つあれば十分」。死と向き合う主人公は周囲の人の温かい思いやりに触れてもう一度人生をやり直そうと決心する・・・。
 
 写真:四国最南端の足摺岬の近くには彼の文学作品「足摺岬」の記念碑が建っている。

小説をもとにした映画ははビデオ化されている。主人公役故木村功と恋人八重役津島恵子

人間は死ぬ理由はいろいろつけたがるが生きる理由は一つあれば十分である。
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