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           銀 心 中
作家、田宮虎彦(1911~1988)は昭和25年(1950年)夏、小説執筆のため岩手県花巻市郊外の鉛温泉藤三旅館を訪れていた。彼は映画化された代表作「足摺岬」の作者でもあり、他の作品には「絵本」「菊坂」「異母兄弟」「牡丹」などがある。


 
作家が執筆のために温泉旅館を訪れるのはよくあることだが、彼はゆったりとした湯治の日々を送るなかで、ふとある日湯治にある床屋(理髪店)を訪ねた。彼はここに住み込んでいた床屋の夫婦の身の上話を聞かされる。そしてそれをヒントにして小説「銀心中」を書いた。



※田宮が投宿し小説「銀心中」を執筆した三階、二十番の部屋



この旅館の風呂、白猿の湯は起源約五百二十年年前(鉛温泉の起源は三百年前とされる)、岩窟より出でた白い猿が己の足の傷を湯に浸し、傷を癒やしたとされるものである。今の湯船は昔川床で湯底には岩があり、湯船の深さは130センチに達し、混浴で内風呂ながら立ったまま入浴する野趣あふれるものであった。



小説「銀心中」より抜粋:佐喜枝(ヒロイン)と珠太郎(佐喜枝の夫のおいであり恋人でもある)二人のまわりに、がっしりと肩や背の筋肉の盛り上がった、そしてその肩も背もさんざん野良仕事にやかれている近在からの湯治客の姿がとりまいていた。まるで油の中にたよりない水を二滴おとしたような異質な二人の体をみんなが舐めまわすようにみていたのが思い出されるのだった…



二人の結ばれない愛はやがて破局を向える。心中事件に発展するこの小説のストーリーだがここに意外な登場人物が現れる。その人物がこの小説のポイントである。



田宮の作品には幼少時の父親から受けた虐待が間接的に描かれた破滅的なものが多く、作風はけして明るいものとは言えないが、誠実である点では太宰治の作品とは大きく異なる。彼がこの小説を通して描きたかったのは単なる男女の愛の破局なのか…それとももっと大きくとらえた人間の悲哀なのか…由緒ある白猿の湯を舞台に繰り広げられる許されね男女の恋愛とその意外な結末。それはこの小説を読んでのお楽しみである。
※航空写真:+印が鉛温泉藤三旅館、黒い点はJR東北新幹線花巻駅の位置である。



鉛温泉株式会社(藤三旅館)
創業 天保12年(1841年)
住所 〒025-0252 岩手県花巻市鉛中平75-1
代表電話 旅館部 0198-25-2311 湯治部 0198-25-2901
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コメント

No title

鉛温泉にそんな悲しい謂れがあったとは知りませんでした。
まだ5回ほど、豊沢MX場に行く時に、通ったくらいでしたね、
今度ゆっくり温泉に入ってみたいです。

URL | 不来方 条 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

不来方さん、この小説は田宮が鉛温泉の鉛をもじって銀心中としたようです。
湯治の理髪店で身の上話を聞いてなければこの小説は生まれなかったと思います。
小説家にとってのネタ探しのヒントは知らない土地への旅にあるのかも知れません。
今は震災のための自粛で行けませんが、それが解けたら訪れてみたいと思います。
場所的にも雪の風情のある冬に訪れるのも一考かも知れません。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

鉛温泉というのは混浴なんですね。しかも立って入るとは珍しい!そんな風情ある温泉を舞台に書かれた小説を思いながら訪ねてみたいですね。混浴の温泉は良くない輩が多いと聞きますがここはそうでなければよいですね。

URL | gt_yosshy ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

風情のある建物ですね。
こういう旅館に宿を取ってゆっくりと湯につかりたいものです。
なんか持病の腰痛に効きそうな感じがします(笑)

URL | 雷電 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

鉛温泉 いいですね!

私も何度かお風呂に入りに行きました。何とも言えない風情が大好きです。あの辺りは良い温泉が多くありますよね。

URL | asa ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

gt_yosshyさん、この小説の背景となった野趣あふれる鉛温泉『白猿の湯』、立ったまま入れるのは珍しい温泉ですが、湯船の周囲には腰かけがついているようです。
昭和25年当時、小説によるとここには野良仕事に追われる農家の人以外に近くのダム工事に携わる役人や技士(文中では羽高組土木)も利用していたようです。
本書はこの珍しい温泉を舞台にした点と肉体労働に携わる人を『油』に例え、主人公である異質な二人を『ニ滴の水』と著した田宮の人をひきつける表現力に驚き、読み始めたらすんなりと読んでしまいました。
ちなみに文中には「東北の山の湯はこのしろがねばかりでなくどこでも男女混浴」となっています。
当時はまだおおらかな時代だったのでしょう。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

雷電さん、以前の雷電さんのブログで紹介された九州の温泉に興味をひかれました。
いい温泉の条件としては効能のみでなく、周囲の立地場所(山、谷川、海etcに隣接して窓からの風情を楽しめること)や旅館(古い建物)がもたらすひなびた雰囲気が確かに重要ですね。
私も時間や事情が許せばこんな宿に長期に泊って湯治してみたいと思います。
時間がゆったりと流れる雰囲気は心の栄養です。
現代社会で疲れた体や心を鉛温泉でゆったりと癒し、鋭気をやしないたいものです。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

asaさん、謹んで震災に遭われた胸中をお察しします。
私も震災で大きなストレスを受けました。
ストレスを癒すには温泉は効果があると思います。
まだここはメジャーなほうですが、東北の山沿いにある秘湯は風情がありますね。
機会があったら是非訪れ、リフレッシュしたいものです。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

たしかこの宿だったと思うのですが、
日帰り入浴で二度ほど行ってます。
20年ぐらい前だったか…
二度目は女性を乗っけて宮沢賢治記念館までドライヴした時に寄りました。
田宮虎彦が宿泊した宿とは知りませんでした。

URL | ☆アツ☆ ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

アツさん、この温泉旅館に行かれたのですね。
温厚そうな紳士に見える田宮虎彦の写真ですが、彼の奥に潜む激情、そして波乱の人生(幼少時に受けた父親からの虐待、ある評論家から受けた酷評、マスコミからの誹謗中傷、ビルの11階から飛び降り自殺した人生の終結)が物語る人生の悲哀…それが現れた作品の一つが銀心中だと思います。
実は彼の作品を目にしたのは今年が初めてですが、あっと言う間に田宮文学の世界にはまりこみました。
もう一つインパクトを受けたのは小説『足摺岬』です。
この作品はビデオを購入予定ですので、見ましたらアップしたいと思います。

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

僕が行くと温泉につからず
一日中建物を観察していそうです
銀心中早速探してみます

URL | - ID:79D/WHSg[ 編集 ]

No title

あぶさん、建物見学もイケると思います。
こんな宿で新年会できたらいいんですけどね(笑)

URL | 横町利郎 ID:79D/WHSg[ 編集 ]

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