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       小説『現代版津軽』
       その4 地吹雪の津軽平野
 『地吹雪の津軽を見ずして津軽は語れない…』昨年末に津軽半島東海岸を列車で訪れた私はその思いを強くしていた。そしてついにその機会がやってきた。平成23年1月9日(日)私は2/3世紀前に太宰が小説津軽執筆のために訪れた津軽半島の足跡をたどるべく、津軽平野(板柳~五所川原~金木)の旅に出発した。
 私は旅館で早い朝食をとり、まだ薄暗い蟹田の町を駅へと向かった。北の空には夕べの余韻をなごり惜しむかのように薄っすらと月が残っていた。
 蟹田の駅に着くと既に青森行きの普通列車がホームに止まっていた。
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※写真:まだ薄暗い蟹田の町(AM6時40分撮影)

※左の停車中の列車が7時8分蟹田発青森行きである。

 蟹田から青森までは津軽線だった。列車は7時8分に定刻通り蟹田を発車天候は曇り時々雪、この日の東海岸は思ったほど地吹雪がひどくない。蟹田から青森に至る区間は左手に陸奥湾を見ながら走る。

 66年前は津軽線はまだ開通していなかったので、当時の太宰はここをバスで通っている。この沿線にはこれと言って大きな町はなく、ホタテ養殖などの近海漁業を営む小漁村が海岸線に沿って点在している。津軽線沿線の西側に目を向けてみよう。小説津軽で東海岸は平野が狭小でその昔『陰』と呼ばれていたとのことだが、確かに海岸から3キロも行けば山(梵珠山脈)に当たってしまう。しかも峠道はほとんどが獣道となって行き止まりで、ごく一部の主要道路を除いて津軽平野側に通り抜けできないのだ。(主要道路の一つの金木に抜ける県道2号線も冬季は通行止め)現在は水田地帯の中に、北海道新幹線の橋脚やトンネルの工事が入っている以外は寂しい限りだ。その寂寥感たるや他県の比ではない。東北育ちの私でさえそう感じるのだから、他の地域の人がここに来ればその思いをさらに強く抱くことだろう。
 
 この日の積雪は思ったほどは少なく、1尺(30Cm)ほどだが車窓から見る沿線の雪景色は彩色のないモノクロームの世界でまるで水墨画を見ているようだ。また時折見える陸奥湾の海は内海のせいかほとんど波がなく穏やかだったが、その色はまるで鉛のような鈍い灰色だった。
※写真:水墨画のような車窓からの眺め

 蟹田を出発して30分ほどで列車は青森県最寄りの中規模の集落油川を通過して青森駅に到着した。青森市は言うまでもなく青森県の県庁所在地であり、現在は人口30万というから太宰の訪れた66年前からは人口が3倍近くに増えたことになる。
※本日の行程(蟹田~青森~板柳~五所川原~金木:太宰治記念館)

※写真:青森駅のホーム

※写真:JR青森駅

※写真:青森駅前

 つい最近東北新幹線の八戸~青森間が開通して東京と青森が結ばれたばかりで、津軽地方はその経済効果が大いに期待される。小説津軽によると太宰が訪れた時代は木造建築が多く、市街地は過去の幾たびかの大火によって何度も消失したと記されているが、現在は駅前にも立派なホテルが建ち、青森ねぶたを年中見物できる「ワ・ラッセ」も最近オープンしたばかりであり、津軽地方の顔に相応しい盛況ぶりを見せていた。駅前の街並みを見るためいったん駅舎を出た私は再びホームにもどり、五能線の快速列車『リゾート白神』の到着を待った。
 
 30分ほどして快速列車『リゾート白神』がホームにその姿を現した。その姿を見て私の期待が一気に高まった。内外装のデザインの秀逸性もさることながら、座席の高さに比して窓の腰の高さが低く(60センチほど)視界が非常に良さそうなのだ。地元の人には不謹慎な発言かも知れないが、このパノラマハイビジョンのような視界性に優れた窓から、地吹雪に見舞われる真冬の津軽を見てみたいという欲望にかられた。
※斬新なデザインのリゾート白神

※この列車に乗れば荒れる冬の日本海や津軽平野の雪(地吹雪)の風情を見られる。
ちなみにHBはハイブリットの略である。

※腰の低い窓に注目!

 青森での乗車率(全席固定の指定席)は30パーセントくらいであろうか。やがてディーゼルエンジンと電気モーターを併用する前衛的なハイブリット列車リゾート白神は、独特のディーゼルサウンドを発して青森駅を発車した。発車してしばらくは家屋が多い人里の風景が続いたが、長いトンネルを越えたところで車窓から見えるアングルが突然変わった。列車は広く遠くを見渡せる平野(津軽平野)に抜けたのだ。そして雪が真横から降ってきた。
 
 小説津軽の冒頭にも謳っているいるように、津軽には7種類の雪(こな雪、つぶ雪、わた雪、みず雪、かた雪、ざらめ雪、こおり雪)が降るとされるが、きょうのこの雪はこな雪なのだろうか?それとも…私は列車に揺られながらそんなことを考えていた。
 
 青森を出発して小一時間も経とうか。列車は板柳という町に差し掛かろうとしていた。ふとA君のことが私の頭をよぎった。板柳町は人口1万7千人で、今は亡きA君の居住地であった町である。そう言えばこの町は大相撲のロボコップこと高見盛の出身地でもある。彼はスマートな物腰のA君とは違って、不器用で武骨でもありお世辞にもカッコいいとは言えないが、その姿勢は常に全力投球で、寡黙であり好感が持てる。彼の懸命で真摯な土俵態度を見るにつけ、津軽人の誠実な気質を垣間見る思いがする。
 
 人間は多少高見盛的な不器用な面が必要なのではないだろうか?完璧に見える人間もやはり人間であり、神ではないのだ。それ故に完璧に見える人間は逆にどこか不自然で理にかなっていないように見受けられる。(無理な背伸びをしているように見える。)人間は完璧に見えるよりは不器用な凡人に見られるほうが気楽でいいのかも知れない

※地吹雪の中を進むリゾート白神

 その板柳から五所川原にかけてはリンゴ畑が多く見られる。下北と並ぶ本州極北の地津軽は古くから冷害の度に凶作に見舞われてきたが、このリンゴ栽培がそれまでの津軽の農業に一筋の光明を見出した。リンゴの花が咲くころは残雪も少なくなり、津軽富士(いわき山)の雪の模様が日増しに変化する時期でもある。春の兆しが感じられるころにごく短い間花を咲かせるリンゴの花は、津軽に明るい春の訪れを告げる風物詩になっているのである。
※写真:春の訪れを待つ板柳町のリンゴ畑

※ほんの短い間、その可憐な姿を見せる津軽の風物詩、リンゴの花(2009年春撮影)

 今はモノクロームの世界だが、やがて桜の花が咲く本格的な春が訪れるのを津軽の人々はきっと心待ちにしているに違いない…
 いったんは弘前に立ち寄ったリゾート白神はやがて吹雪の中、津軽平野の中央に拓けた拠点となる地方都市、五所川原に到着した。
            その5に続く
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