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「現代版津軽」その2蟹田
津軽半島東岸のほぼ中央に位置するのが蟹田(現外ヶ浜町蟹田地区)である。(写真参照)

 蟹田はその名の通り、蟹の名産地としても有名である。昭和19年5月13日に蟹田の親友N君の家に泊った太宰はその夜猫脚(猫の足のような形をした脚がついた御膳)にお山のように積み上げられた蟹とリンゴ酒で歓迎を受ける。そして話題が先輩でもある一人の50年配の流行作家(志賀直哉)のことに及ぶと、太宰はその不満を一気にぶちまけた。
 
 太宰「…君たちなんかまだ若いから、針金で支えられたカーネーションをコップに投げ入れたみたいな女学生くさいリリシズム(叙情性)を芸術の気品だなんて思っていやがる。」
 
 流行作家に対しての彼の闘争心がむき出しになった瞬間だった。他の知り合いもいたが、N君とは学生時代からの友人ということもあって全くの無礼講だった。晩年の太宰は現世の煩悩にはこだわりがないように見えるが、このころは違っていた。話題が自分の作品に及ばないことに彼ははなはだ不服だった。薬物中毒や鎌倉で心中事件を起こすなど、既に社会的な前歴のあった彼からしてみれば、志賀直哉の存在は眩しくもあり、目ざわりな存在だったのかも知れない。
 
  小説津軽で蟹田のことを彼はこう語っている。「津軽半島の東海岸は山がすぐ海岸に迫っているので平野に乏しく、山の斜面に田や畑を開墾しているところも少なくないので、津軽半島西部の広い津軽平野に住んでいる人たちはこの外ヶ浜地方をカゲ(山の陰の意)と呼んで、多少あわれんでいるようだが、この蟹田地方だけはけして西部に劣らぬ見事な妖野(肥沃な地)を持っている…」
 
 あくる日の5月14日、太宰はN君と知人を伴って蟹田の町を一望できる小高い丘「観瀾山」に向かった。ここで彼は花見に及んだ。(写真は小説津軽の一小節である。)


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写真は蟹田フェリーターミナルから見たトップマストと観瀾山である。

 仕事が休みとなった12月19日、私は宿の中村旅館からフェリー乗り場のある港まで歩いた。水温が高いのだろうか。海面に湯気が立ち上っていて気温とは裏腹にいかにも暖かそうな感じがした。

 次に太宰の足跡をたどって観瀾山に登ってみた。前夜に積もった雪が既に10センチほどあった。太宰が66年前にそうしたように私もここから蟹田の町を見下ろしてみた。
 観光シーズンには下北半島とのフェリーが行き交い、賑わうが今はシーズンオフとあって閑散としていた。しかしかえって静まり返った蟹田の町に私は一層の旅情を感じていた
 
 過去に下北半島(大間、東通)に行ったときもそうだったが、旅情というのは辺境の地に行けば行くほど強くわくものである。旅情を誘い高めるものとしてひなびた温泉、地酒もまたいい。私は凍てつく寒さの中、すっかりそんな気分に浸っていた。

蟹田の町を見下ろす観瀾山に立つ太宰治の文学碑

文学碑の説明

 太宰の真骨頂を示す言葉が石碑に刻まれていた。『彼は人を喜ばせるのが何よりも好きであった(佐藤春夫)』サービス精神旺盛な彼のキャラクターをこれほど如実に示す言葉はないだろう。

 この石碑に刻まれた言葉を見て、私はつい最近30代半ばで亡くなった津軽の知人A君のことを思い出していた。なぜなら彼も太宰に劣らず人を喜ばせるのが何よりも好きであったからだ。
 
 折からのみぞれまじりの雪のせいもあっただろうか?私の目に涙があふれた。彼の案内で見た弘前桜祭り…名城の周りに豪華絢爛に咲き誇る数千本の桜、津軽人の情熱と恐ろしいほどの熱気が私の心を打った。酒を浴びるほど飲んで津軽の人々とともに春が来た喜びをわかちあった。そして祭を彩る無数の夜店、オートバイのショー…が走馬灯のように頭に浮かんだ。
 
 仏教では現世の出来事は全て幻と説いているが…あれはやはり幻だったのか?そう思わないととても身の置き場がなかった。A君の死は私の心の中で認めたくなかったのである。
 
 少し感傷に浸った私は太宰の足跡を追って今別、三厩に向かうべく宿に戻った。心を切り替えて、10時半前に宿を出て三厩(みんまや)行きのヂーゼル列車に乗るためにJR津軽線蟹田駅に行った。外ヶ浜の中心の町である蟹田だが、かなりローカルな雰囲気が漂っている。
(写真:JR蟹田駅)

(写真:蟹田駅のプラットホーム)

 駅前には居酒屋が2軒と物産館があるのみで、ひっそりしていたが日頃喧騒に追われている私にとっては新鮮な光景だった。(写真:蟹田駅前商店街)

(写真:蟹田駅待合室にて、外ヶ浜への旅情を掻き立てるポスター)

 11時22分発の三厩行きのディーゼル列車は30分以上前にホームに止まっていて、ディーゼルエンジンの「カタカタカタカタ…」という独特の音を一体に響かせていた。ストーブ列車ではないが、列車の中は暖房が効いていてなかなかローカルな趣がありそうだ。

ディーゼル列車の独特のエンジン音
私は発車20分前に列車に飛び乗るとさっそくウヰスキーをあおり、読みかけの津軽をめくった。

 太宰の足跡をたどり、雪景色を見ながら本州極北の地津軽半島をディーゼル列車で旅する。
この時、私はA君への追悼の念と外ヶ浜への興味、列車に乗り込んだ時の特有の安堵感が複雑に絡み合った心境に包まれていた

YOU TUBE動画 蟹田発三厩行きディーゼル列車発進!
その3へ続く 
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