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 小説「現代版津軽」 その1 はしがき
 現代社会はあまりにも便利になってしまった。インターネット、パソコン、携帯電話、家電製品、自動車…それだけに今回の津軽半島行きは私にとって大きな意味があった。
 
 恵まれた環境を絶つことによって万物のありがたみを知り、現代社会の利便性に慣れきっていた自分自身をリセットする。そのような期待が私の頭をよぎった。それはある意味で座禅の時の心理に似ているのかも知れない。
 
 それと今回の津軽半島行きにはもう一つの期待があった。津軽の生んだ小説家太宰治(1909-1948)

 その生きざま(数度に渡る自殺未遂、薬物中毒)と死にざま(愛人と情死)から彼を忌み嫌う人が存在するのは事実である。実際、彼の小説を読んで絶望感に襲われた人もいるだろう。でも彼の作品は本当に自己否定的、厭世的、社会逃避的なものなのか?走れメロスのような純朴で正義感あふれる作品を残した彼がなぜ…
 
 作品に見られる明と暗の両極、「生まれてすみません」に代表される悲壮的とも言える彼独自の人生観。その謎を解く手がかりを私は小説「津軽」(1944年執筆)に見出した。
 

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 皆さんは津軽の冬をご存じだろうか?太宰治の出身地の金木町(現五所川原市)も冬の間地吹雪に見舞われる。地吹雪になると一寸先も見えないほど視界を奪われる。
(写真:津軽の有名な写真家小島一郎の写真で地吹雪の中、角巻をはおった農婦が集団でうずくまるような姿勢で黙々と歩く姿が撮影されているが、もし視界の悪い地吹雪の中で一人で歩いて、方向性を失えば遭難する恐れがある。)

 津軽の一小節に「こな雪、つぶ雪、わた雪、みず雪、かた雪、ざらめ雪、こおり雪 (東奥年鑑より)」という七つの雪が歌われている。
(写真:津軽半島蓬田地区で撮影。これでもまだまだ視界が開けているほうである。)

 太宰の生まれた時代、いや太古の昔から厳しい冬の間、津軽の人はこのように外出もままならず、春が来るまでじっと待つような耐え忍ぶ冬を送っていた。では、津軽の人々は大人しくてただ忍耐強いだけなのだろうか?いやそれは違う。
 
 春の弘前桜祭り(注釈:津軽藩の居城であった弘前城跡に数千本の桜が一気に咲き乱れる有名な祭りで、その豪華絢爛さは日本一とも言われる)を一昨年見る機会があった。
 
 この祭りでは津軽の人々が辛い冬場に耐え忍んできた秘めたるエネルギーが一気に解放され、燃焼、爆発する。そのエネルギーには圧倒される。青森ねぶたもそうであるが、津軽人のこの爆発的とも言えるエネルギー放出は厳しい冬場の耐乏生活の反動があってのことではないだろうか?

 

 津軽藩は一度も他藩から侵略を受けたことのない土地柄で、津軽人特有のじょっぱり(意地を張るという意味)の精神、気位の高さ、義理人情の厚さにはこの厳しい冬場の気候が大きく関係している…数度の津軽地方出張を経て、現地の人と触れ合う折に、私はこういう考えを持つように至った。
 
 私はこの小説「現代版津軽」を書く前に太宰治について触れなければならない。太宰文学はもちろん彼の稀なる才能があっての作品であるが、その作品は冬場の厳しい気候と中央から遠く離れ、独自の気質(津軽気質)を持つ津軽半島の地主(ブルジェア階級)のオズカス(注釈:叔父粕のなまり。三男、四男坊…をさげすんで言う津軽地方の方言)に生まれ育った者だけが書き得たものであると言っていいのではないだろうか。何作かの彼の作品に触れて最近私はそう思うようになった。
 
 太宰がその小説家としての地位を築きあげ、家庭も持ちつかの間の安定期を迎えた34歳の時、彼は出版社からの依頼された小説津軽執筆のため、また故郷津軽を再び見直したい自らの意向もあり、気候のいい5月半ば~6月初めの3週間に渡って津軽半島を訪れた。
(写真:太宰治自筆、津軽半島地図)

 今でこそ周回道路が整備されて半島を一周できるようになったが、当時は全く違っていた。このころの津軽半島は東海岸と西部の平野が山脈によって分断され、まるで道路がニ本の角のようになって各々(三厩、小泊)で、どん詰まり(行き止まり)になっていたのだ。
現在の道路地図と見比べて欲しい。
(写真:現青森県地図)

 昭和19年5月12日夕方、東京から夜汽車に乗った太宰は12時間半を要し13日の朝青森駅に着いた。知人T氏の出迎えを受けた太宰はT氏の家に立ち寄った後、親友である蟹田(注釈:現外ヶ浜町蟹田地区)のN君(同級生であり当時の蟹田町の町議、故中村貞次郎氏)宅へ向かった。蟹田は今回私の泊った宿のある町でもある。ひょっとして太宰に対して、津軽地方に対して新たな発見があるかも知れない。』このことが私の期待を大きく膨らませた…その2へ続く
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