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「無冠の帝王」森下卓九段が振り返る羽生善治九段との名人戦


リンク動画解説
百聞は一見に如かずというが、先ずは森下九段のお人柄を動画でご覧頂きたい。森下九段の素晴らしいお人柄がおわかり頂けるものと思う。

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3863番目の投稿である。前回に引き続き後藤元気編『将棋エッセイコレクション』の中の作品「まだまだ将棋が強くなる」を紹介したい。著者は遊駒スカ太郎氏(別名は椎名龍一氏本名は加藤久康氏)である。後藤元気氏は将棋観戦記者であり、プロボウリング選手、日本バックギャモン協会会員と多彩な顔を持つ人物である。「まだまだ将棋が強くなる」の主人公は森下卓九段である。執筆は2003年近代将棋5月の「スカタロの関東おもしろ日記」を改題して収録したものである。

初めに森下卓九段のプロフィールについて触れておきたい。1966年(昭和41年)生まれ。花村元司九段門下で福岡県北九州市小倉区出身。竜王戦1組通算17期、順位戦A級通算10期という強豪棋士である。ご子息に若手の俳優・森下大地氏が居る。

1親子

タイトルこそ獲得したことはないものの、一般棋戦の優勝が8回、1995年には28歳で名人戦で当時の羽生名人(当時23歳)に挑戦するなど、輝かしい棋歴を持つ。現在は57歳だが、エッセイ執筆時は36歳であり、棋士としては若手から中堅に差し掛かる頃であった。

このエッセイが書かれたシチュエーション(2003年5月発表)としては、3箇月ほど前に行われた大阪の将棋会館でのA級順位戦(将棋では最高峰のクラス)の谷川浩司九段(当時は王位)との対局で、この対局に敗れれば森下氏(当時は八段)のB級陥落が決まりかねない状況であった。大事な一曲に敗れた森下氏を気遣う遊駒氏は、エレベーターで一緒になり、その後一緒に外に出た。時節はまだ寒い2月の末のことであった。

外に出た後で森下氏は「軽くどこかに行きましょうか?」と遊駒氏を誘った。快諾した遊駒氏に対して森下氏は「私は食事はいらなくて、一杯だけ酒があればいいです」と述べたという。結局宿泊したホテルの一室で二人は缶ビールを交わすことになった。缶ビールを飲み始めても森下氏はけして負けたことを愚痴らずに、いつものにこやかな表情であったという。

話題が人類の平均寿命が延びる(あと50年もしないうちに人間の寿命が120歳くらいまで飛躍的に伸びる)という話になった際、森下氏は「私も長生きした時のことを考えておかなければなりませんね。でも今の状態でずっと頑張れば、70歳になっても将棋が強くなっていると思っています」と述べた。実は森下氏はここ数年、節制した生活を送っており、
①夜寝る前に食事をとらない。
②酒は一杯だけ飲む。
③食事は玄米が主食。
というストイックなもので、すべては将棋のためであるという。森下氏はこのような生活を続けて、以前よりも5キロほど健康に痩せたという。午前3時近くになって二人は別れた。そんな森下氏は早起きで、朝はNHKのラジオ体操と周辺のウォーキング、水垢離をした後で、詰め将棋を300題解くという。

森下氏は翌朝、気の置けない仲間同士(遊駒氏を入れた4名)との内輪話として、モーニングをとりながら「ここ10年ほど恋愛に莫大なエネルギーを奪われ、その分将棋に集中できなかったが、今は我ながら物凄い勢いで巻き返ししている」ということも述べたという。

「まだまだ将棋が強くなる」の著者である遊駒スカ太郎氏である。

2遊駒スカ太郎

横町読後感想
「70歳になっても将棋が強くなる」と聞いて、自分もまだまだ老いていられないという気になりました(笑)作家の櫻井秀勲氏(元女性自身の敏腕編集長)が「人生で30代の次に輝いていたのが70代です」と語っていたのを思い出しました。

森下氏は世代では谷川浩司17世名人と羽生善治九段の中間に位置する棋士です。タイトル獲得こそないものの、「森下システム」の確立などで、将棋界では一世を風靡した名棋士の一人です。印象としてはとにかく真面目で、努力家で、棋風同様に外連味がなく人間的に大変立派であるということです。

将棋にすべてを懸ける棋士は結構多いですが、ここまでストイックに自分を律すること出来るのは凄い!の一語です。彼は無冠の帝王と言われていますが、気負わずに気さくな性格が多くのファンに愛されている気がします。前回はヒフミン(加藤一二三氏)の個人主義(対局中の自由気ままな振る舞いに関するエピソード)について触れましたが、森下氏の場合は正反対という印象を受けます。それだけに好感度が高い棋士と言えそうです。

私はこのような棋士(どちらかというといぶし銀的な立場ながら性格的に立派)に惹かれるものを感じます。特筆するべきは往時36歳だった森下氏の将棋に対する純朴な姿勢です。夜遅い時間に対局が終わることの多い棋士ですが、その後何も食べずに寝酒を一杯だけ飲む。そして翌朝は早く起きてラジオ体操やウォーキングをする。それだけでなく、水垢離をした後で、詰め将棋を300題解く。これほどまでに将棋一筋に打ち込んだ棋士は他に聞いたことがありません。(負けた時は朝方までやけ酒を飲む棋士も多いと聞きます)

そして誠実さに加えての優しさと社交性。棋士には職業柄、人間としてのバランスを欠く人も存在するわけですが、彼の場合はそれとは明らかに一線を画した素晴らしいお人柄を痛感します。そのことをこのエッセイで知り、私は一気に彼のファンになった気がします。本日も最後までご覧頂きありがとうございました。ブログランキング・地域情報・東北地区に参加しています。宜しければクリックをお願い致します。
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4六百横町
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コメント

こんばんは。
動画や記事からは朗らかながら、まじめ・ストイクックな人柄が伝わってきますね。

よくお名前は拝見するのでタイトルについては取ったことがない、、、というのを少し意外に感じてしまいました。

どこかしら振り切れたところがあるのがプロ棋士の皆さんの魅力ですが、振り切れたストイックさと社交性が同居されている森下九段の魅力なのですね♪

URL | 暇人ity ID:-

こんばんは~

そう言えば、ヒフミン、最近テレビで見かけなくなりましたね。
森下卓九段のことは、知らなかったですが、将棋には多少興味があり、毎日アプリの詰将棋をしています。
それだけ、自分を律し、70歳を過ぎても、好きなことに打ち込めるってすごいと思いました。

URL | 布遊 ID:-

こんばんは

将棋は一時学友から指導を受けましたが、
頓挫したままです。
森下氏の今後が楽しみですね。

URL | ichan ID:-

暇人ityさん、ありがとうございます。

おはようございます。森下九段は立派なお人柄もあってファンも多い気がします。ここまでストイックな人も少ない気がします。どんなシチュエーションでも矩を越えないのは、既に君子の域に達しているかのような気がします。

棋士として云々の以前に人間的に立派である。なんと言ってもこれに勝るものはない気がします。私はこういう棋士にこそ、連盟の理事職に就いて欲しいと思っています。

お陰様で本日も有意義なご感想を頂戴しました。ご配慮に感謝致します。コメントを頂きありがとうございます。

布遊さん、ありがとうございます。

おはようございます。人生のピークを70代に持ってくる。或いは70代でも諦めない。これは凄いと思い、記事を書きました。森下九段は常識人であり物腰がスマートな印象を受けます。

個性派の多い将棋界ですが。大盤解説を担当するとお人柄が伝わるので、毎週のテレビ対局(NHK)は欠かさず見ています。AIの形成判断で一層興味深く観戦できる気がします。

お陰様で本日も厚誼を頂戴しました。おはからいに感謝しています。コメントを頂きありがとうございます。

ichanさん、ありがとうございます。

おはようございます。動画(羽生さんとの名人戦)を拝し、森下九段の達観ぶりは凄いなと思いました。7番勝負で一矢を報いるだけで大変ですが、それを成し遂げたのはさすがです。

森下九段は謙譲を身に着けておられるようで、ここに懐の深さと、限りない人間的魅力を感じます。名棋士はやはり好人物でなければならない。これを痛感したエッセイと受け止めています。

おはからいにより本日も有意義なご意見を頂戴しました。ご配慮に感謝致します。コメントを頂きありがとうございます。

将棋についてはど素人なので、森下卓九段については、名前をチラと聞いたことがある程度しか知りませんでしたが、真面目な方なのですね…。もちろん九段まで行かれているので、棋界でも優秀な人であることは間違いないのですが、さらに努力を重ねる人なのですね…。
素晴らしい人を紹介していただき、ありがとうございました…。

URL | boubou ID:-

boubouさん、ありがとうございます。

貴兄に触発されて将棋の記事を書くようになりました。また一年ほど前からNHKの早指し将棋対局を見るようになりました。(毎週欠かさずに見ています)その貴兄からコメントを頂戴して嬉しく思います。貴兄は先日花村元司九段の記事を書かれましたが、森下九段は愛弟子の一人です。

それはさておき、森下九段からは自己を俯瞰するかのような蘊蓄の数々が伝わって参ります。(厳密に言えばエッセイは観戦記者の視点も含みますが)
プロ棋士は勝負に集中するあまり、対局中にオタクっぽい仕草(髪を異常な頻度で触るクセ等)が出たりするものですが、森下九段に関しては安心して観ていられる気がします。

それとテレビ将棋の解説役に回った際
①声が小さ過ぎてよく聞こえない。
②話の冒頭に必ず「はい」という等、癖のある話し方をする。(見方によっては恭に走り過ぎ、プロ棋士の権威を失いかねないスタンスとも受け取れる)
etcがありますが、森下九段はオーソドックスです。動画を見ていると謙遜(羽生氏の終盤の逆転術が尋常でない)も伝わって参ります。私はこの点を高く評価しています。

貴兄にそうおっしゃって頂き記事を書いた甲斐がありました。ご配慮により本日もお引き立てを頂戴しました。おはからいに感謝しています。ありがとうございます。

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