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 Kim Carnes ベティデイヴィスの瞳 


無頼派と言われた作家・坂口安吾は、自らの随筆で「私小説家というのは東京の日本橋の道のど真ん中で、裸になって逆立ちするくらいの覚悟がなければいけない」という旨のことを述べていたが、これに関しては私もまったくもって同感である。然らば自分も死ぬ前に若き日の失恋体験を語らねばなるまい。幸い、多くの取り巻きが去った今こそが絶好のチャンスと言っていい。この機会を逃せば、こんな話など闇に葬り去られるに違いない。

彼女の名をA子としよう。(過去にアルファベットの仮名のスペルにこだわった人が居たが、念のため彼女のイニシャルでないことをお断りしておく)自分が入社して間もなく、彼女は突然中途で入社してきた。

A子はベティ・デイヴィス(アメリカの女優:1908~1989)のように色白で、やや小柄ないでたちだったが、美人とプレティを足して、2で割ったような日本女性でキュートな印象であった。A子の配属先は経理であった。はにかみ屋の自分としては、なかなかA子に話しかける機会がなく、最初のうちはやきもきしていたのを記憶している。

新入社員歓迎会の席で、幸運にもA子(主賓)は自分の斜め向かいに座った。乾杯のあと、しばらくすると彼女は開口一番で「ねえ、横町君ってなぜ黙っているの?」と語った。シャイということもあり、緊張気味の私は「俺もまだ入ったばかりだからね…」と返した。

歓迎会の席では、彼女が言葉少なに挨拶した後、取締役から歓迎の言葉が述べられた。その後一言二言話をしてみると、外見とは異なり、世間ずれしていたが、自分としてはあばたもえくぼと見えたのである。往時、あまり酒が強くなかった私だが、彼女の視線を意識し過ぎてか、この日はビールを飲み過ぎ、トイレ鏡に行った際、鏡で自分の顔を見たら真っ赤になっていた。

その後二三箇月が過ぎると、徐々に彼女の化けの皮が剥がれて行くことになる。なんと複数の男性社員と紅一点で、国分町(歓楽街)に飲みに行ったということが自分の耳に入ってきたのである。また彼女は以前の職場では男性社員の出張に同行したことがあったと言っていた。初心だった私はその真意を問えなかったが、自らを”発展家”とでも言いたげな発言に際し、私は少しだけ戸惑いを覚えた。だが、まだ諦めてはいなかった。客観すれば魔性の女と言うしかないのだろうが、例えそうだとしても彼女の欠点をどうしても認めたくないという状況、所謂恋煩いに陥っていたのである。

※若かりし頃のベティ・デイヴィス(女優)

0ベティ・デイビス

週末を迎えたある日、彼女が職場の流しに行ったのを横目で見た私は意を決して後を追い、2人だけになるとこう述べた「よかったら今度の日曜日、俺とデートしない?」A子は一瞬戸惑いの表情を見せたが、しばらくして自分の申し入れを受けてくれた。「やった!」その時の私は天にも昇る思いであったのは言うまでもない。

待ちに待ったデートの日が来た。私は当時流行していた洋髪をきめ、待ち合わせの場所に愛車のスバル・レオーネクーペRXを止めた。しばらくしてA子がやってきたが、どうも浮かない表情だった。車の中で話したことはたわいもないことだったが、残念ながら彼女のノリが悪いという印象はぬぐえなかった。噛み合うには共通の対話が必要であったが、未熟な私はその話題を見出すことなく、短いデートはあっという間に終わってしまったのである。

ここから私は熱病に取りつかれたように彼女のことで頭がいっぱいになった。悶々として仕事も手に尽かないありさまで、彼女が他の社員と飲みに行くということを聞かされただけで、気が狂わんばかりであった。昔から「恋煩いにつける薬はない」と言われるが、この時ほどこの言葉の真意を実感したことはない。

リンクした「ベティ・デイヴィスの瞳」は、恋煩いに陥った私が毎日、朝夕の通勤時にカーステレオで聞いた曲である。願いは彼女と恋仲になり、一緒にこの曲を聞くことであったが、思うようにことは進まない状況にあった。

実は彼女の他に、職場にはB子という憧れのマドンナ(口数の少ない、はにかみ屋で美人)が居たが、自分には高嶺の花という感があり、心はA子のほうに傾きかけていたのである。A子と会話して大変驚いたのはB子が男性社員から誘われなくて寂しい思いをしていたということであった。これには大きな衝撃を受けた。

昔から恋愛においては、「押しの一手」という言葉があるが、B子の心境(女心)を察するに、まさにこの一語が当てはまるのを実感したのである。ある日、A子からそんな裏事情を聞かされた私は複雑な心境だった。そうこうしているうちに、B子は同期で入社した社員と交際し、やがて恋仲となり、婚約が決まっていたのである。自分からしてみれば「なぜ…」と思ったが、男女の仲ほど不思議なものはない。自分は苦々しく思ったが、せめてA子の気持ちには取り入りたいという気持ちでいっぱいであった。

そんな折に、職場対抗野球大会が開催され、私は代打用員として補欠メンバーに登録された。試合が始まり、やや敗色が濃くなってきた頃、私は代打として出場した。「よーしA子の前でいいところを見せてやる!」気負った私のバットは虚しく空を切り、三振に終わってしまった。この時は「カッコ悪いところを彼女に見せてしまった。しまった。」と思ったが、この三振同様に彼女との縁はその後、空虚なものとなる運命にあった。

それから間もなくして、A子はある日突然職場からいなくなった。仔細は言えないが、上司から聞かされたのは彼女の身に信じ難いことがあったというのである。「嘘だ!そんなバカな!」自分は上司の言葉を疑った。自分としては彼女の突然の退職に際し、どうしても受け入れ難い気持ちだった。

自分はこの時ほど失恋の虚しさを感じたことはない。心の傷は深く、傍から見れば「横町君、何かあったの?最近目が死んでるね」と言われるほどであった。😖💧失恋の傷が癒えるには随分時間が掛かったのを記憶している。「恋は盲目」とはよくぞ言ったものである。今でも「ベティ・デイヴィスの瞳」を聞く時、届くことがなかった彼女への苦い思いと、運命の悪戯を思い浮かべる。

ちなみに後で知ったのは、女優であるベティ・デイヴィスはきつい口調と傲慢さで有名で、たびたび共演者やスタッフを困らせていたという逸話が残っている。ベティの魔性の女ぶりに関してはA子と酷似したものを重ねるのである。

1片思い

横町コメント
3894番目の記事になります。本日は惜しげもなく、私の若き時代のほろ苦い思い出(失恋体験)を吐露させて頂きました。今までほろ苦いという抽象的な表現に終始していた感のある自分の青春時代でしたが、少しは現実味のあることに迫ったつもりでいます。しがらみがほとんどなくなった今こそが絶好の好機と考えています。

本日は新たなカテゴリーとして自叙伝【青年期】を追加しました。これからどんどん赤裸々なことを書いて行きたい所存です。もちろん素面では困難なので、酒と音楽(リンクした曲)の力を借りてのことでした。

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2六百横町
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