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松本清張『鴉』あらすじ
浜島庄作は風采が上がらない男(小説の中では松本清張の外見とそっくりに描かれている)だが、仕事でもうだつの上がらない中年サラリーマンだった。中堅家電メーカー「火星電器株式会社」に勤めていたが、38歳になっても平社員(既婚)のままであった。販売部の所属だが、複数の後輩から出世で先を越され、会社では肩身が狭く仕方なく漫然と毎日を過ごしていた。

そんな時にどういう風の吹き回しか、浜島は労働組合の役員になった。面倒な組合活動に振り回されたくないというのが大方の見方だが、彼の場合はまったく違っていた。労組の役員となった浜島はこれまでの会社への恨みを晴らすかのように、精力的に組合活動に勤しんだ。やがてベースアップ交渉の時期となり、彼はスト権行使も辞さない構えで、会社役員と団体交渉に臨んだ。浜島としては会社への意趣晴らしの意図が強かったのである。

 そんな浜島を見守るかのような人物が労組の委員長を務める柳田修二であった。強硬派の浜島の粘りもあり、組合側は相応のベースアップを獲得していたが、浜島はそれにも満足せずにスト権行使(突入)を主張した。しかしながら浜島の意思に反し、ストは柳田委員長の判断でギリギリの処で回避されたのである。スト回避後、会社は人事権を発動し人を動かした。浜島は会社側から報復人事を受けることとなった。降格とはならなかったものの、日の当たらない窓際的なポスト(倉庫係)へと左遷され、冷や飯を食わされたのである。

これに対して、柳田(元委員長)は異例の出世(二階級特進)で製品部課長となった。憤懣やるかたない浜島は、柳田が以前労組の会議中、バーのマッチ(ゼブラと書いてあった)を使っていたのを思い出した。油断した柳田が慌てて隠したのを浜島は見逃さなかったのである。浜島はゼブラと言うバーに通いつめ、柳田の秘密を暴くために或るホステスに近づいた。相応の投資をして浜島は年増のホステスから内緒話を聞き出す事に成功したのである。

ホステスの話では労組の詰めの段階の際、柳田元委員長と会社の労務担当重役Aが密かに店で逢い、密談に及んでいたという。どうやら柳田は昇進の見返りとしてスト権回避をAから持ち出され、これを承諾したらしい。特ダネを掴んだ浜島は柳田の裏切り行為(スト権履行を会社との取引に使った)を、会社の人間に糾弾しようともくろんだ。しかし元々人望のない浜島の発言では耳を傾ける者も少なくどうする事もできなかった。

そんな折に運悪く浜島が携わっていた資材倉庫が火事(不審火)で半焼し浜島は責任を取らされる形で会社を解雇された。やけになった浜島は毎日にように会社に押しかけ、柳田と会社側の密約や裏取引の事情を喚きたて、その都度守衛につまみだされた。暴挙とも言えるが、これに困惑したのは身に覚えのある柳田であった。柳田は性分として気が弱かったのだろう。繰り返される糾弾に周囲の見る目が変わっていくのを感じ、遂には仕事も手につかなくなり、ノイローゼ気味となった。そんな柳田の憔悴する状況をみて、所属する課の部長は彼に休職を薦めた。職場うつを発症した柳田は遂に出世コースから外されのである。

 その頃、浜島は或る会社の警備員として働いていた。初めて浜島の気持が理解できた柳田は浜島に逢ってこれまでの経緯を話す決意をした。その後、柳田は殺意を持った浜島の毒牙に掛かり、殺され浜島の住居の敷地内に埋められてしまった。死体を埋めたところには鴉の大群が押し寄せ、付近の住民から警察に通報が行くことになる。

2労使交渉

読後感想
ここでストーリーは終わるが、私はこの話を殺人事件として読み解くのではなく、日本の労使紛争にごく有り勝ちなこと(裏取引)という見方をしている。自分のサラリーマン時代の経験では、労働組合の委員長を経験した者は数年のうちに、決まったように管理職に上げられていた。交渉の仕方が敏腕か否か?に関わらず、会社側(経営者側)から見て、労組委員長を相手にして、毎年ベースアップ交渉に臨むのは得策でないという意図が働いたものと考えている。

自分は何度か労働紛争を経験した身だが、日本の労使紛争によく有り勝ちな描写が入っている点に清張のただならぬ筆力を重ねている。清張の経歴を見て気づくのは弱冠15歳で川北電気株式会社小倉出張所の給仕に採用されたことである。その後、高崎印刷所に見習いとして就職するなど、数社の印刷関係の会社勤め経歴があるようだ。

20歳の頃には文学仲間のプロレタリア雑誌講読の余波から、警察に“アカ狩り”で検挙され、十数日間留置されているのである。まだまだ我が国の労働者の立場が弱かった頃の話である。従って、この小説に登場する主人公(浜島庄作)は若かりしころの清張自身をモデルにしたと考えるのがごく自然であろう。

経済的に恵まれた境遇にあるブルジュアよりも、ハングリーな人生こそがドラマを生みやすいという定説があるが、清張の下積み時代のプロレタリア精神がその後の作品に与えた影響は大きかったではないだろうか?特に“アカ狩り”による拘留体験が、彼になにくそという精神をもたらした気がしてならない。

1組合活動

横町コメント
3984番目の記事になります。本作の最後の殺人事件は付け足しのようなもの(そうでないとサスペンスにはならない)で、清張は労使紛争の本筋には矛盾を含むこと(組合のトップはすぐに会社側の人間になりやすい)を書きたかったのでないでしょうか?公的な労使紛争の場では、労働者側(名の知れた大企業の労組委員長を務めた人物)と有力企業の経営者の筋が多いが多いですが、公的な紛争でない交渉(社内の労使交渉)においては、本来は対等であるはずの労使の関係を、意図的に崩せるのは経営者側にのみある(人事権を握っている)ということです。ちなみに労使紛争を経ての報復人事は建前上は禁止されています。

従って表面上は対等でありながらも実は対等ではなく、労組のトップは己の利権と引き換えに、組合の権利を売ることもあり得るということです。(労組委員長の権限は非常に強い)そういう意味において、本作は大変練られたストーリーを重ねました。但し一つだけ難を言えば、浜島の殺人に至った動機(自らの出世と引き換えに、組合を裏切った柳田に殺意を抱いた)にやや不自然なもの(普通なら一緒に春闘を戦った柳田よりも、嫌がらせ的な人事を行った会社の上層部を恨むはず…)を感じました。

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7六百横町
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