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Elgar  Pomp and Circumstance
エッセイ「名誉遂行を伴っての渡世」
私が心の病を患ってそろそろ10年が経つ。それまでは自分だけは縁がないと思っていただけに、その厄難が降りかかった際の衝撃は極めて大きかった。

棲家に帰れず道に迷った一匹の亀がここにいたとしよう。よしんばこの亀が運悪く天敵の猫に見つかってしまえば、猫のいいようになぶられることだろう。但し、なぶられるのと食われるのでは意味が違う。猫の鋭い牙をもってしても堅い甲羅はきっと己の最後の砦を守ってくれる…私は己の堅い甲羅を信じて、なぶられている最中に頭や手足を甲羅の中に頑なに引っ込め、猫の疲れるのをじっと待った。

然るに、私は世で鬱に悩み苦しむ御仁にこう伝えたい。「世に攻撃は最大の防御という言葉があるのなら、防御は反撃への準備(足場固め)の期間とも言い得るものである。竹の節に上下はあれどこれはけして尊卑を決めるものではない。自分を卑下することなく、あなたはもっと自信と名誉を持つべきだ」と。

執拗に猫になぶられた私は数年を費やし、やがて来るべき猫への反撃態勢を固めた。その極意はどんな時でもけして猫に気遅れしない強い気持ちを保ち続けることである。武士道において敵に背を向けることはありえない。但しこの気持ちを保つのは容易なことでない。それは武術に於いて日々の稽古が欠かせないのと酷似している。ゆえに常日頃から実戦を想定した様々なシュミレーションがいざと言う時に己の命綱となると私は信じている。

様々な駆け引きの末の生き残りへの模索、これは四百数十年前の多くの戦国大名が行った権謀術数振りと何ら変わりない。歴史は繰り返すという言葉の通り、人の世は普遍性に満ちていると私は思っている。

そんな私が今週半ば会社帰りに立ち寄った居酒屋を紹介したい。店の名は伴蔵、場所は相馬中村である。

「伴蔵」にはいかにも主君に寄り添う忠実な家臣という連想を受ける。それとともに隠れ家的な雰囲気が私の好奇心をくすぐった。

店内には十数人の先客が来ていた。まずは芋焼酎をロックで煽った。

ウォーミングアップ代わりの芋焼酎で喉を潤した私は目当ての日本酒を注文した。
私は何事も迷うことが大嫌いである。ゆえにメニューを渡された私は栃木清酒の「鳳凰美田剣」を直感で選んだ。

手前の肴はジュンサイとウニの酢の物である。それと刺身の盛り合わせを頼んだ。そうしている間に私は二合入り徳利を二つ空けた。

相馬駅発亘理駅行きの最終バスは21時10分である。乗客は5人も居なかったと記憶している。この日の帰路はほとんど寝て帰った。

例え陣中であっても油断することなく酒を嗜む。
私はこれまでの己の名誉遂行の手段に何の誤りがなかったのを再認識し、竹に雀の模様の入った仙台バスに乗り込み帰路に着いた。
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